温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

「温泉文化」をユネスコ無形文化遺産に登録すること

少し前ですが、新聞に「温泉文化」をユネスコ無形文化遺産に登録することをめざす知事の会が発足したという記事がありました。また、日本温泉科学会においても、温泉文化の登録に関するシンポジウムが開かれたことがあります。各界で登録への機運が高まってきているようです。

2022年11月22日の岐阜新聞の記事より

日本温泉科学会シンポジウムのチラシ

大切なことは、温泉が「ユネスコ無形文化遺産に登録される」ことによって「箔がつき、ブランド化する」ことを願うのではなく、「確かな温泉文化がまっとうに継承されていく」ための共通認識をもち合わせ、今後の確固たる方向性を見出すことではないかと思います。

例えば、草津温泉では「時間湯の湯長の営みが医師法に触れる可能性がある」という大義名分のもとで時間湯の湯長制(実質的には時間湯)という温泉文化を廃止しましたが、むしろこういった状況を回避するために「ユネスコ登録」が意味と効力を成すのかもしれません。

ユネスコ無形遺産登録」のあかつきには、全国の温泉地や温泉施設に「祝 ユネスコ登録」の「のぼり旗」が立ち並び、温泉地がお祭り騒ぎになることは必至です。そして、のぼり旗が色あせる頃には、ユネスコ登録という言葉も世の中からすっかり消えている、そういった光景が目に見えています(テレビ放映中だけ盛り上がる大河ドラマ館のように)。

ユネスコ登録による「ブランド化」が、海外の富裕層相手のビジネスの呼び水に使われ、結果的に温泉文化が壊わされては本末転倒です。粗悪な温泉文化の温床を生み出すことは避けなければいけません。本物の温泉文化が末永く存続し続けられるような「環境整備の機会」として受け止めることこそがユネスコ無形世界遺産への登録の意義であると思います

湯治場として支持されてきた在りし日の福島県早戸温泉の混浴内風呂

素朴なたたずまいを残す島根県小屋原温泉の内風呂(撮影許可済)

湯治場の風物詩として続けられてきた山形県肘折温泉の朝市

湯治場の温泉建築に圧倒される山形県瀬見温泉 喜至楼

湯治文化を色濃く残す共同浴場を囲む客舎 青森県温湯温泉

青森県恐山の湯小屋

川端康成が「伊豆の踊子」を執筆した静岡県湯ヶ島温泉湯本館の露天風呂

奇をてらうことなく、なくてはならない本物の温泉文化を地道に守っていくためのユネスコ登録なら、私も全力で応援したいと思います。

登録記念として、国立温泉博物館なんかができたらいいなあと、密かに期待しています。

 

「一番良かった温泉はどこですか」と聞かれますが‥‥

良かった温泉がいっぱいありすぎて

いろいろな人から、「今まで行った中で一番良かった温泉はどこですか」と、本当によく聞かれます。正直なところ、温泉が好きすぎて、良かった温泉がいっぱいありすぎます。甲乙つけてランクづけることなど、私には到底無理なことです。 

長野県渋温泉郷の「角間温泉」のこと

無性にまた行きたくなる温泉というのがたくさんあります。長野県の角間(かくま)温泉もその一つです。長野県には角間温泉が二つありますが、湯田中渋温泉郷角間温泉です。

猿の入浴で有名な地獄谷野猿公苑からほど近い温泉地で、時代から取り残されたかのような(いい意味で)湯治場です。共同浴場「大湯」を取り囲むように数件の温泉旅館が立ち並び、さらにすぐ近くには2つの素朴な共同浴場があります。温泉街には店も、自動販売機もありません。

角間温泉の旅館に囲まれるように立地している共同浴場「大湯」

角間温泉共同浴場「大湯」の浴槽

私は、「越後屋」旅館と「ようだや」旅館に宿泊したことがありますが、いずれも歴史を感じる木造の素敵な旅館でした。越後屋旅館の方は趣の異なる洒落れた貸切風呂が3ケ所ほどあったような記憶があります。とにかく心地よい風呂でした。ようだや旅館には、素朴なかけ流しの風呂付の部屋があり、これもまた風情があるというか、いつでもすぐに温泉に浸かれる幸せにひたることができました。

「ようだや」旅館の部屋付きのかけ流し風呂 24時間かけ流されている

旅館の温泉と3つの共同浴場(大湯、滝の湯、新田の湯)に入りましたが、温泉で誰かに出会ったことがありません。いつも一人独占状態で、贅沢極まりないひと時でした。

角間温泉共同浴場「滝の湯」

角間温泉共同浴場「滝の湯」の浴槽

角間温泉共同浴場「新田の湯」

共同浴場「新田の湯」の浴槽

全国的にも、こういった温泉地が本当に少なくなりました。数年ぶりに訪れてみると、庶民的な旅館がリフォームして高級旅館に変わっていたり、温泉街の何軒かが廃業していたりして寂しい思いをすることが少なくありませんが、角間温泉はいい意味で「昔のまま(だと思う)」がずっと続いています。いつまでもこのままで残っていてほしいと願うばかりです。

 

角間温泉とかけて、お気に入りの服ととく」

「その心は」

「一度たら、またたくなるでしょう」

 

誤解される泉質②「単純温泉」

「単純」という言葉のイメージ

「おまえは本当に単純だ」と言われると、なんとなく情けない気分になります。落語に登場する、ちょっとお馬鹿でまぬけな「与太郎」みたいな‥‥。

念のため、「単純」という言葉を広辞苑第五版で引いてみました。

単一で他の要素のないこと。そのものばかりであること。純一

構造・機能・考え方などが複雑でないこと。込み入ってないこと。簡単

誤解されている「単純温泉

前回書きました筆者によるアンケート調査(2004)の結果、「硫酸塩泉」と同様に「単純温泉」もかなり誤解されている泉質であることがわかりました。

単純温泉の認識についてのアンケート結果(2004年 筆者による)

単純温泉とはどのような泉質ですか」という問いに対して、「一種類の成分だけが溶けている温泉」という回答が11%、「無色透明の温泉」が7%、「成分が何も溶けていない温泉」が6%、「単純な温泉」など、その他の誤った記載、「わからない」、「未記入」といった回答を合わせると75%で、ほぼ正しく認識している回答はわずか1%に過ぎませんでした。誤った回答の中には、「効能がない温泉」、「有難みがない温泉」など、否定的に受け止めている回答が目立ちました

もちろん単純温泉は「温泉法 による規定を満たした25 ℃ 以上の温泉のうち、温泉1 ㎏中に含まれる気体以外の溶存物質の含有量が総量1g 未満の温泉と定義される温泉ですが、やはり、単純温泉の定義と、そのような温泉に「単純」という言葉が使用されていることのギャップといいますか、定義と言葉が乖離していることが誤認識につながっていると考えられます。

単純温泉」の性格を読み取ることが大切

単純温泉という命名は、人間が便宜上線引きをした結果生まれたものにすぎません。同じ含有成分が1.0g/㎏であれば塩類泉となって陰イオンや陽イオンの主成分が泉質名として記載されますが、0.9g/㎏であれば単純温泉となって含有成分についての情報が泉質名から消されてしまいます。ほとんど同じ温泉なのに、境界値を設定して泉質名を無理やり分類するというやり方によって、片や「与太郎」のようなイメージの泉質名になってしまっている訳ですね。

単純温泉と言え、含有成分による泉質的な特徴を有するわけですので、量的には少ないかもしれませんが、含有成分の質的な表記も必要ではないかと思います。例えば、単純温泉ではあるけれどもナトリウムイオンや炭酸水素イオンを主成分とする場合、単純温泉(ナトリウム―炭酸水素塩 型)のような表記法にしたらどうかと思いますが、いかがでしょうか。

そもそも、問題の根本にあるのは、「温泉の泉質は10種類に分類できる」という、泉質名ありきの考え方です。泉質は十湯十色です。無限にある泉質をデジタル的に分類するのではなく、アナログ的に理解することが大切だと思います。

 

単純温泉。「simple hot springs」ではなく、「mild hot springs」の方がいいのではないでしょうか。

単純温泉の温泉地

単純温泉の温泉地には、道後温泉下呂温泉鹿教湯温泉、湯岐温泉、俵山温泉、カルルス温泉などなど、愛される温泉がいっぱいありますね。

単純温泉道後温泉 本館を裏側から写しました

単純温泉福島県湯岐温泉 浴槽の底に露出した岩盤から温泉が直に湧き出す山形屋

 

 

誤解される泉質「硫酸塩泉」

泉質名を見たり聞いたりして、その本質を正しく理解してもらえればよいのですが、どうもそうではない現状があるようです。

少し古い話になりますが、筆者は、2004年に「温泉はどのように理解されているか」というアンケート調査を行い、その結果をまとめました。全国のさまざまな年齢層の男女を対象としました。

アンケートにはいろいろな項目がありましたが、その中で最も問題視されたのが、泉質名の理解でした。

アンケート結果に見る硫酸塩泉についての認識

硫酸塩泉という泉質はどのような泉質ですか」という問いに対して、「硫黄くさい温泉」、「硫黄と食塩が混ざっている温泉」、「白く濁った温泉」など、硫黄泉をイメージした回答が18%見られました。「硫酸の入っている温泉」、「酸っぱい温泉」、「ひりひりする温泉」、「殺菌力がある温泉」、「肌が溶けそう」など、硫酸を含む強酸性泉をイメージした回答は15%、その他の認識やまったくわからないと回答したのが46%で、ほぼ正しく認識している回答は、わずか4%に過ぎませんでした。

硫酸塩泉の認識についてのアンケート結果(2004年 筆者による) 

硫酸塩泉には、ナトリウム―硫酸塩泉(芒硝泉)、カルシウム―硫酸塩泉(石膏泉)、マグネシウム―硫酸塩泉(正苦味泉)などがあります。

そもそも芒硝(ぼうしょう)とは、硫酸ナトリウムの10水和物などで、わが国の正式な医薬品の規格書である「日本薬局方」に生薬として位置づけられています。漢方では便秘薬として使われるそうです。皮膚への影響力が謳われることもあり、入浴剤として使われることも少なくありません

石膏(せっこう)は硫酸カルシウムのことで、ギプスなどに使われるおなじみの物質です。これもまた日本薬局方に生薬として位置づけられています。生薬としては、解熱作用や、喉の渇きを抑える(止渇)作用があるとされています。

正苦味せいくみと読みます。ただし、「しょうくみ」という読み方も使われてきました。硫酸マグネシウムの水和物のことで、医薬品としては、経口投与により下剤の薬として位置づけられています。そういえば、「ミネラルウォーターのコントレックスを飲むと便秘にいい」といったことをよく聞きますが、コントレックスにはマグネシウムイオンや硫酸イオンか多く含まれているので、下剤としての効果が期待できることは然りですね。

マグネシウム硫酸マグネシウム)を多く含むコントレックス

少し話がそれますが、これまで、泉質の適応症ではなく、主成分として含まれる物質の「医薬品としての効能」を述べてきました。そうなんです、薬機法(2014年薬事法から改訂)という法律があり、温泉は薬物ではないため、「○○に効く」、「○○に効果がある」というようなことは、薬機法の規定で記載してはいけないことになっているのです。すなわち効能を謳うこができません。そのため、「高血圧に適応がある」、つまり高血圧の方が温泉療養を行うのに適している泉質、すなわち 適応症 となどという回りくどい言い方をすることになっています

硫酸塩泉が湧く群馬県伊香保温泉 階段の真ん中に温泉の配湯管が通る

硫酸塩泉の温泉地としては、すぐに思いつくだけでも、北陸の山代温泉山中温泉、静岡の熱川温泉、群馬の伊香保温泉や四万温泉、湯宿温泉、島根の玉造温泉など、いっぱいあります。いずれも強酸性泉や硫黄泉のように刺激の強い温泉ではありませんね。

温泉旅館のホームページなどで、ちょっとだけでもその辺りの泉質の説明をしていただけると、正しい理解につながっていくのではないかと思います。

 

 

温泉に生息する生物

温泉が大好きなのは、人間や渋温泉地獄谷の猿だけではないようです。

温泉に入る長野県渋温泉地獄谷野猿公苑ニホンザル

全国各地の温泉には「温泉発見伝説」があり、白鷺や熊、鹿や猿などの動物による発見伝説も枚挙にいとまがありません。真偽のほどはともかく、昔から動物と温泉の距離が近かったことを物語っているのでしょう。それを裏付けるかのように、群馬県の野栗沢温泉には、カラフルな色をしたアオバトが温泉中のミネラルを補強しに、群れを成してやって来ます。

また、全国各地には、動物の名前が付く温泉地もたくさんあります。鶴の湯、鷺の湯、山鳩の湯、鹿教湯温泉熊の湯温泉、猿倉温泉‥‥‥きりがないですね。

温泉に生息する生物の種数

長島(2012)の論文によれば、「温泉に生息する生物」は、原生動物の繊毛虫類(ゾウリムシなどの仲間)が185種、節足動物(昆虫や甲殻類、クモ類など)が147種、原生動物の肉質虫(アメーバなどの仲間)が46種、軟体動物(貝などの仲間)が29種だそうです。予想以上に、みんな温泉が好きなんですね。

さらに、細菌(バクテリア)や藻類などの微生物も、数は未知ですが、実に多くの種類が多様な温泉環境に適応して生息していることが確認されています。中には、草津温泉の湯畑などに生息するイデユコゴメのように、90℃以上の高温泉で、pH2といった強酸性の温泉に生息している強者もいます。

草津温泉湯畑に生息するイデユコゴメ(岩の表面の緑色の部分)など

「オンセン」の名がつく生物

ミズアブの幼虫は、池や沼などの水中で育ちますが、高温の温泉にも生息することで知られ、「オンセンアブ」と呼ばれています。ミズアブのイメージを壊して恐縮ですが、昔から「便所バチ」などと呼ばれている「アレ」です。他にも、オンセンバエ、湯布院の金鱗湖の温泉水路等に生息するオンセンゴマツボなど、「オンセン」の名前が付く生物が存在しています。

 

オンセンゴマツボが生息する湯布院温泉の金鱗湖

湯布院温泉の金鱗湖に生息するオンセンミズゴマツボ(大分県HPより引用)

私は新潟県の有名な露天風呂でオンセンアブの幼虫と混浴をしたことがありますが、あまり感じのよい混浴ではありませんでした。これだけは言っておきたいのですが、野湯や山の露天風呂では、浴槽の底や側面を手で物色することだけは絶対にやめた方がいいですね。想定外の輩と遭遇することがあります‥‥。

鉄酸化細菌による油膜状バイオフィルム

温泉が自然に湧き出しているような野湯に入ると、茶色い沈殿物が生じていたり、温泉の水面に油膜のようなものが浮いていたりすることがあります。茶色い沈殿物の正体は、温泉中に生息する鉄酸化細菌によって生成された水酸化鉄などです。同時に生成されるブヨブヨした物質を伴うこともあります。

「鉄酸化細菌」による「油膜状バイオフィルム

また、油膜のようなものの正体は、オイルスリック状バイオフィルムと呼ばれる、微生物が温泉成分を利用して作る微生物皮膜で、油が浮いている訳ではありません。人体に影響を与えるものでもありませんのでご安心ください。

気をつけたいレジオネラ属菌

ご存知のように、温泉に生息する微生物で問題なのが大腸菌レジオネラ属菌などです。両者は人間が浴槽へ持ち込んだり、人間に都合のよい設備により増殖したりするものです。特にレジオネラ属菌は、もともとは自然界に普通に存在する常在菌ですが、循環浴槽の配管の中に生成されるバイオフィルム(アメーバ等のぬるぬるした微生物皮膜)の中に潜んで増殖し、飛沫と一緒に肺の中に入るとレジオネラ肺炎を起こします。特に、飛沫が肺の中に誤進入しないように、循環湯の給湯口や打たせ湯付近を避けたり、ミストサウナサウナのようなものを避けたりすることが賢明でしょう。 

温泉を利用した養殖

最近は、温泉を利用した養殖や栽培が各地で行われるようになりました。温泉で水温調整することによって、これまで寒冷地では不可能であった養殖が行えるようになりました。さらに、温泉に含まれる塩分を殺菌や浸透圧調整に利用し海水魚の養殖が可能となりました。淡水の熱帯魚であるナイルティラピア(チカダイ、イズミダイの名で市場に出回っていた)、ウナギ、スッポンなどをはじめ、近年では山間の温泉地においてトラフグ、ヒラメ、サバ、ウニ、チョウザメなどの養殖が行われるようになりました。 

群馬県大塚温泉で養殖されているナイルティラピア 夕食にはティラピア料理が並んだ

かつて岐阜県平湯温泉で養殖が推奨されていたナイルティラピアが繁殖している

岐阜県平湯温泉のスッポン養殖専用の温泉

温泉熱を利用した栽培

温泉熱を利用して、野菜や果樹の栽培も盛んに行われています。青森県大鰐温泉で栽培されてきた「大鰐温泉もやし」は、温泉を利用して栽培される長いもやしで、特産品となっています。

大鰐温泉もやし」(一社法人東北観光推進機構利用規約に基づきコンテンツより利用)

全国各地の温泉では、トマト、メロン、イチゴ、もやし、トウモロコシ、ハーブ、タラの芽の他、バナナ、マンゴー、ドラゴンフルーツ、コーヒー、アセロラなどの熱帯果樹などもさかんに栽培されています。

寒冷の岐阜県奥飛騨温泉郷でドラゴンフルーツなどの熱帯果樹が育っています。全国各地では、山の中でヒラメやフグが育っています。すごいことなのですが、何か頭がこんがらがってくるのは私だけでしょうか。

 

伊吹山 「積雪記録世界一の山」

岐阜県滋賀県の県境にある伊吹山は、標高1,377mの山で、深田久弥日本百名山にも選ばれています。ヤマトタケルノミコトの伝説をはじめとした故事来歴、薬草や稀少生物、さざれ石や山の特異な形成史など、伊吹山の魅力は尽きません。

滋賀県側から見た伊吹山 左側(西側)は削り取られた跡が大きく残る

石灰岩の採掘により、西側(滋賀県側)が大きく削り取られていますが、その傷跡も多少目立ちにくくなっており、何と言っても、琵琶湖と濃尾平野に挟まれて高くそびえる雄姿は、圧倒的な存在感とオーラを発しています。

2084校の校歌に登場する伊吹山

「かなり遠方からも見える」暮らしの中に溶け込んだ山であるため、滋賀県側も濃尾平野側も、数多くの学校の校歌に登場しています。1986年に滋賀県伊吹町が「伊吹山をうたった校歌の調査」を行いました。今から40年程前のデータになりますが、滋賀県岐阜県、愛知県、三重県の、小学校、中学校、高校を合わせて、2084校の校歌に伊吹山が登場し、歌われていました。その伊吹山から遠く離れた愛知県が1341校と、過半数を超えていることが興味深い事実です。濃尾平野の遠くからの方が山の全体像が見えやすいようです。

伊吹山をうたった校歌調査」滋賀県伊吹町発行 より引用

積雪世界一の記録保持者

そんな伊吹山ですが、実はあまり知られていない「世界一の記録」を保持しています。1927年(昭和2年)2月14日、伊吹山山頂で、11m82㎝ という積雪を観測しました。これは、観測可能な場所における積雪世界記録で、現在も破られていません

日本海からの北西の季節風の通り道に位置しており、伊吹山にぶつかって雪雲を発生させるため、標高が低い割に雪が多く降り積もります。

「さざれ石」を生む伊吹山

伊吹山の上半分は、赤道付近からプレートに乗ってやってきた石灰岩(一部は緑色岩)からなっています。緑色岩はもともと海底火山の本体をつくっていた岩石、石灰岩はその上部のサンゴ礁由来の岩石で、それらが大陸に付加してできた地質です。

伊吹山をつくる石灰岩が、崖から崩れ落ちて細かくなり、それが再び固まったものが、君が代に詠まれる「さざれ石」です。岩石名としては石灰質角礫岩に分類されます。

伊吹山周辺では、ごく普通に見られ、決して珍しいものではありませんが、「君が代のさざれ石」として官公庁などに贈られてきました。この地方の多くの学校の校長室や玄関などにもったいぶって飾られています。飾られているには飾られているわけですが、生徒もだれも見向きもしないという厳しい現実があります‥‥。

伊吹山山麓岐阜県旧春日村で祀られている「さざれ石」

伊吹山の麓にある岐阜県旧春日村の「さざれ石の説明看板」

「さざれ石の、いわおとなりて‥‥♫」と歌われますが、「さざれ石」が「いわお(おおきな塊の石)」になるのではなく、「いわお」が崩れて「さざれ石」になるのです!

 

 

 

温泉分析書の「電気伝導率」とはどんな単位?

電気伝導率(mS/m とは

温泉分析書の上の方のpHなどが記載されているあたりに電気伝導率という項目が位置づけられている場合があります。

「電気伝導率」が記載された温泉分析書

電気伝導率の単位「mS/m」は、「ミリ ジーメンス マイ メートル」と読みます。

この単位は、一口で言うと水溶液の電気の通りやすさを示す尺度で、水より食塩水の方が電気が通りやすいように、水溶液の中にイオンがたくさん存在している程、電気が通りやすくなります。

すなわち、温泉の電気伝導率は、温泉中に含まれる全イオン量を反映しており電気伝導率が高い温泉は、溶存物質量( 陽イオン  +  陰イオン )が多いということを表わします。

詳細な成分分析を行う前に、温泉水に含まれるおおよその溶存物資量を推定することができるため、分析作業を合理的に進めるために役立ちます。

電気伝導率は、pHと同じように簡易な機器ですぐに測定できます。