温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

温泉博物学「外国の温泉土産・入浴剤」

台湾北投温泉のお土産「湯の華」

台湾の北投(ぺいとう)温泉には「地熱谷」と呼ばれる温泉の自然湧出地帯があります。沼のような底から高温の酸性硫黄泉がボコボコと湧き出していて、北投温泉の泉源となっています。日本で特別天然記念物に指定されている「北投石」の、もう一つの産地としても知られています(下呂発温泉博物館でも、許可を得て研究用に採取された台湾北投温泉産の北投石を複数展示しております)。

かなり前のことですが、北投温泉を訪れて地熱谷付近の土産物店を物色していた時に、「天然温泉塊」と書かれた土産物を見つけました。ちょうど日本全国の「天然湯の華」を収集していた時でしたので、思いがけない発見に胸がときめきました。もちろん購入して持ち帰りました。

台湾・北投温泉「地熱谷」のお土産屋さんで売られていた「湯の華」

小さな容器から中身を取り出すと、何と、温泉で沈殿して固まった硫黄(硫黄華)の塊が2つ、そのまま袋の中に入っていました。浴槽に入れてもなかなか溶けきらない感じの、随分雑な「入浴用天然湯の華」でした。

容器の裏面に漢字で何か書いてあるのですが、よくわからないので「グーグル レンズ」で翻訳してみました。

裏面に記載された説明の翻訳(グーグル レンズによる)

「塊をそのまま浴槽に投入する」、「全身入浴を1回15分以上しない」、「慢性皮膚病の改善に適しています」などと書かれていました。

それにしても、私のような変わり者以外に、「温泉沈殿物のかけら」を結構なお金を出して買う人がいるとすれば「ぼろ儲け」です!

台湾・北投温泉の「地熱谷」 2000年撮影

「地熱谷」の底から温泉が湧き出す様子 2000年撮影

「地熱谷」下流の天然の足湯 2000年当時

下呂発温泉博物館の北投石展示コーナー

カナダの「温泉ミネラルソルト」

こちらもだいぶ前のことですが、カナダのブリティシュコロンビア州にあるエインズワースホットスプリングを訪れた時、売店に当温泉のご当地土産として「入浴剤(ミネラルソルト)」が売られていました。カナダの温泉巡りをしていて初めて見たので、すぐに購入しました。

エインズワース温泉で売られていた入浴剤

袋の前面に大きく「ORIGINAL HOT SPRINGS MINERAI SALTS」と書かれ、その上に販売されていた温泉名「AINSWORTH HOT SPRINGS BRITISH COLUMBIA」が書かれています。

日本に帰って詳しく見てみると、袋全体が緑と茶色の2色刷りなのに、その温泉地名だけが少しインクの乗りの悪い黒色で印刷されていました。袋の一番下には、虫めがねで見ないと読めないような小さな字で、土産の販売会社の住所が書かれていましたが、別の温泉地(ラジウムホットスプリング)のビルの一画でした。日本の土産物でもよくある、「日本中に流通している製品に後でその観光地名のシールだけを貼った」ようなたぐいの物でした。

成分は、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム硝酸カリウムなどと記載されていました。日本でいう「日本の名湯シリーズ」や「旅の宿シリーズ」のような重曹系の「人工入浴剤」とは異なり、食塩系の人工入浴剤でした。

カナダあたりでもバスタブに湯を張って入浴剤を入れて入るような文化があるのでしょうか。

カナダ・エインズワース温泉

カナダ・エインズワース温泉

入浴剤の発売元の住所のカナダ・ラジウム温泉

 

温泉博物学「温泉軟膏」

なんか効きそう!「血の池軟膏」

別府鉄輪温泉の名勝「地獄めぐり」の一つに、赤い色をした「血の池地獄」があります。池の見学場所の傍らには、「血の池軟膏」などの販売コーナーがあります。

別府地獄めぐりの一つ「血の池地獄

「血の池軟膏」とは、血の池地獄に堆積した鉱泥に、イオウ、モクタール、ワセリンを混ぜて作られた軟膏で、れっきとした第3類医薬品です。

血の池地獄で販売されている「血の池軟膏」

「医薬品」ですので、温泉とは違って効能を謳うことができます。レトロ感満載のパッケージには、田虫、水虫、しらくも、疥癬(かいせん)、がんがさ、はたけ、霜やけ、火傷、肛門ただれ、ひび、あかぎれなどが効能として記されています。

袋のデザインと言い、「ここでしか売られていない」という販売コーナーの雰囲気と言い、この軟膏が何かしらわからないけど効きそうな気がしてくるから不思議です。私が購入したのはもう何年も前になりますが、血の池地獄のホームページによると、内容量22gで、現在の価格は1500円となっています。

何か効きそう!「煉り湯華」

これに似たような「温泉軟膏」に、秋田県玉川温泉売店で売られている「煉り湯華」があります。「湯花含有量18%の甲」と「湯花含有量4%の乙」の二つのタイプがありました。こちらは医薬品ではないため、効能を謳うことはできません。でも、天下の玉川温泉の温泉成分から作られていると聞けば、ものすごく効きそうな気がして、神にもすがる思いで、ついつい買ってしまいそうです。いや、買いました。何年も前に買った時は、1000円ぐらいでした。

玉川温泉で販売されている「煉り湯華」

玉川温泉の湯の華採集場所

日本一の湧出量を誇る玉川温泉「大噴」泉源

「血の池軟膏」も「練り湯華」も両方とも購入しましたが、自分の肌に使用はしていませんので、効能についてはよくわかりませが、温泉博物館の展示資料として重宝しています。

 

日本の「各温泉地」の「温泉科学情報」をまとめて紹介する本があります!

『図説 日本の温泉 170温泉のサイエンス』

今から4年前に、『図説 日本の温泉 170温泉のサイエンス』(日本温泉科学会監修)という本が、朝倉書店から出版されました。わが国の数多くの温泉の中から、温泉科学的に重要であると思われる温泉地170を取りあげ、日本温泉科学会の会員が「各温泉地の自然科学的な側面」について執筆しました。

これまでに実に多くの温泉に関する書籍が出版されていますが、温泉地ごとにまとめられたタイプのものとしては、観光ガイドブック的な内容であったり、文化および自然遺産的な紹介であったり、健康増進的な観点から書かれたものであったりと、温泉地を訪ねることを前提としたものがほとんどだと思われるのですが、本書はそういった書籍とは一線を画すもので、研究成果に基づいた温泉地ごとの自然科学的な温泉情報がまとめられています。

『図説 日本の温泉 170温泉のサイエンス』日本温泉科学会監修 朝倉書店

内容は、温泉地によって多少異なりますが、泉質や湧出量などの他、温泉が湧出する場所の地質、温泉が湧出するメカニズムなどについて図や写真を用いながら、わかりやすく簡潔にまとめられています。また、それらの根拠となる学術論文等も参考文献として一覧にして記載されているので、研究や、発展的な理解のためにも役立てることができます。

私も、編集委員として携わりながら、「中部地方の温泉の概要」や、下呂温泉岐阜県)、奥飛騨温泉郷岐阜県)、湯屋温泉(岐阜県)、地獄谷温泉(長野県)、松代温泉(長野県)、花山温泉和歌山県)について執筆いたしました。

「温泉を深く理解したい方」の情報源として、あるいは温泉科学の入門書として役立てていただければ幸いです。4700円+税と、ちょっと値段が高いので、まずは図書館等で手に取ってみて見てくださいね。 

 

飲酒後の入浴は、かえって「酒が抜けにくい!」

飲んだ後に「ひとっ風呂浴びて酒を抜く」?

以前は、飲み屋街のような所に深夜営業のサウナがあり、酩酊に近いような人たちで賑わっていました。みんな「酔いをさますために」風呂やサウナに入っていました。

「風呂やサウナで汗をいっぱいかけば、アルコールも抜けていく」と思っていました。

飲酒後の入浴に関する研究

「飲酒後の入浴が体にどのような影響を与えるのか」といった研究は古くから行われています。その中で、特に「飲酒後の入浴によってアルコールが代謝(分解)しやすくなるのか」という内容を扱った論文を見つけました。

 

日本温泉気候学会雑誌第25巻第3号(1961年発行)より引用

残念ながら、飲酒後の入浴は「かえって酔いがさめるのが遅くなる(アルコールが抜けにくくなる)」という結論でした。特に、熱いお湯への入浴において顕著だということです。

飲酒後のサウナについては、アルコールの利尿作用で血管内が脱水状態になっているところへ、大量の汗をかくことでさらに脱水が進んで血液がドロドロになるため、脳梗塞心筋梗塞のリスクが大きくなります。

ふらふら徘徊した後は、いさぎよく寝る。入浴は危険ですから。

ちなみに、二日酔いで気持ち悪くなったり頭が痛くなったりするのは、アルコールの分解が不十分で、アセトアルデヒドという物質が残ってしまうことによるものだそうです。

 

飲酒後は、「入浴」ではなく、アルコールを分解させるために「水分をたくさん摂る」ことが肝心です‥‥と、本日もまた二日酔いで苦しい自分に言い聞かせています。

 

 

紀伊半島の旅「橋杭岩」

橋杭岩

橋杭岩(はしぐいいわ)は、和歌山県串本町にある、奇岩が一列に長く並んだ景勝地で、国の天然記念物に指定されています。

和歌山県串本町景勝地橋杭岩」 国指定天然記念物

橋杭岩はどのようにしてできたのか

橋杭岩」の景観がどのようにしてできたのか、大いに気になるところです。

今から1500万年~1400万年前の火成活動によって、地下のマグマが、辺り一帯に分布している泥岩層の割れ目から貫入して石英斑岩の岩脈を形成しました(下の地質図の茶色い部分)岩脈のまわりの泥岩(地質図の水色の部分)は軟らかいために侵食されやすいのに対して、岩脈をつくる石英斑岩は硬くて侵食されにくい差別侵食)ため、薄い板状の岩脈が直線状に露出して残されました。やがて、細長く露出した石英斑岩は、風化によって所々で崩れ、現在のようにいくつかの岩が直線上に立ち並ぶ景観ができ上りました。

橋杭岩周辺の地質 岩脈が直線上に分布している(産総研地質図ナビより引用)

橋杭岩付近に設置されていた南紀熊野ジオパークによる説明看板

紀伊熊野ジオパークの説明看板によると、立ち並ぶ岩の周辺に転がっている岩の数々は、過去の大きな地震による津波によって移動したものだそうです。

橋杭岩近くの弘法湯

橋杭岩のすぐ近くの国道沿いには、「弘法湯」という小さな温泉があります。空海による発見伝説から名づけられているようですね。現在は一棟貸しの施設として運営されているそうです。入りたかったのですが、家族からひんしゅくを浴びそうで‥‥断念しました。

民間ロケット「カイロス」の初打ち上げ

橋杭岩」を訪れたのは、3月7日でした。国道42号を大地町から串本に向かう途中、山沿いに大きなロケットのような看板があるのを見ました。何の看板なのかよくわかりませんでしたが、やがて、行く先々で「ロケット打ち上げ」のポスターがあり、翌々日の9日に串本町の先ほど通過した辺りでロケットの打ち上げがあることを知りました。そして、地元が大いに盛り上がっていることに気づきました。

橋杭岩からロケットの打ち上げを見ようとする人たち 期待が高まる(毎日放送画像より)

岐阜へ帰り、ロケットの打ち上げが延期され、13日になったことを知りました。

13日にネットでロケット打ち上げのライブ映像を見て、大変ショックを受けました。最先端の技術開発の難しさを知ることになりました。

打ち上げ失敗を報じる新聞記事 (岐阜新聞3月14日朝刊より)

美しい串本の海を背景にしたロケット打ち上げ。失敗はしましたが、南紀の歴史に大きな足跡を刻みました。そして、日本の未来に大きな一歩を踏み出しました!

 

 

紀伊半島の旅「那智の滝」

那智の滝

紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されてはや20年が経とうとしています。

紀伊半島を旅するのが好きで、よく出かけますが、今回の白浜への家族旅行では久々に那智の滝や、那智大社などへも寄り道(温泉以外はみんな寄り道)してきました。いい温泉がいっぱいあるのに、ここは我慢です。

青岸渡寺五重塔那智の滝

「滝」の定義とでき方

滝の定義は、「川や谷の河床(川の底)にできた段差を水が流れる場所」ということで、滝の成因は、「なぜ河床に段差ができたのか」ということに尽きます。溶岩の末端の崖にできた滝、断層が掘り出されて段ができた滝、違う種類の岩石が接する場所で、どちらか軟らかい方の岩石だけが差別侵食によって削られることによって段ができた滝など、滝の成因はいろいろあります。

那智の滝のでき方」

那智の滝」は、地下のマグマが割れ目を伝って上昇して堆積してできた花崗斑岩(熊野酸性岩類)の岩体と、砂岩や泥岩からなる熊野層群の岩体との境目にできた滝です。

那智の滝周辺の地質図(産総研地質調査センター地質図ナビより引用)

那智の滝の崖をつくる花崗斑岩は硬い岩石で、崖の向かい側に分布する砂岩や泥岩は比較的軟らかい岩石からなっています。そのため、滝側の花崗斑岩は侵食されにくいのに、もう一方の砂岩や泥岩は侵食されやすく(差別侵食)、段差ができます。また、滝のある場所は花崗斑岩の岩体の端の部分で、マグマが急に冷やされた場所です。その結果、柱状節理と言われる垂直方向の均一な割れ目が発達し、地形的には特に急峻な崖になります。こうしてできた大きな段差に向かって川が流れ、133mという「一本の滝」としては日本一の落差の滝ができあがりました。

落差133mの那智の滝 滝の崖は熊野酸性岩類の花崗斑岩、崩れている岩も同様

那智の滝に限らず、紀伊半島は地質的な魅力がいっぱいです。現在、日本国内には、日本ジオパーク委員会に認定された「日本ジオパーク」が43地域あるそうですが、ここ紀伊半島南紀熊野ジオパークもそのうちの一つです。観光地となっているような場所の地質や地形についての正しい解説がなされ、教育普及活動が進められています。かつては読んでいて「うそー」と叫んでしまうような、ひどい内容の看板をよく見かけました。笑ってはいけませんが、事実と神話や伝説が混同しているものが少なくありませんでした。

熊野那智大社青岸渡寺

滝の近くには熊野那智大社や、西国三十三所第一番札所である青岸渡寺(せいがんとじ)もあり、凛とした神聖な空気に満ちています。

私の住む岐阜市からほど近い所には西国三十三所第三十三番札所(最後の札所)谷汲山華厳寺があり、これで最初と最後の一番と三十三番札所にお参りしたので、すべてを制覇したような気分になりました‥。

熊野詣での熊野三山のひとつ「熊野那智大社

熊野那智大社の隣にある西国三十三所一番札所「青岸渡寺

那智

私にとって「那智」といえば、連想するのは「那智黒飴」。岐阜でもかつてテレビの謎めいたコマーシャルをやっていましたし、お土産でいただく定番でした。「那智黒」というのは、硯や黒の碁石に使われた「黒色粘板岩」という石の名称です。粘板岩とは、泥が固まってできる泥岩に圧力がかかってはがれやすいような性質をもった硬い石です。「那智黒」には「那智」という地名が入っていますが、産地は三重県熊野市神川町だそうです。

紀伊半島は地質や地形的な見どころがいっぱいで、ワクワクします。すばらしい自然の活用と保護のへの南紀熊野ジオパークの持続的な活動に期待しています。

 

 

パンダの温泉地「白浜温泉」

「家族旅行」という旅行

いつもほとんど一人温泉旅か、一人酒場巡り旅をしていますが、今回は家族旅行で和歌山県の白浜温泉に行きました。今までにない「温泉色の薄い」旅になりました。

白浜温泉遠景 奥の砂浜がオーストラリアから砂を運び入れている「白良浜

白浜のもう一つのシンボル 海中展望塔

かつては、海中展望塔までモノレールで行ったという。船がぶつかった歴史も

今はやりの、海と一体になれる「インフィニティ―浴槽・足湯」手前は足湯、奥は太平洋

白浜温泉が湧き出すメカニズムは

白浜温泉が湧き出すメカニズムは、「南海トラフから地下深くへ沈み込んで行くフィリピン海プレートからの脱水作用によって絞り出された数100℃の熱水が、地下水などを取り込みながら地上までつながる断層や割れ目にそって上昇してきたもの」であると考えられています。

地下の割れ目に沿って数10㎞もの道のりをたどって白浜の地へ湧き出したなんて考えると、すごいことだと感動してしまいます。欲張りな私は、「どうせなら岐阜の町に割れ目がつながって湧き出できてくれればよかったのに」と思ってしまいます。

パンダの温泉地「白浜温泉」

昔から何度も白浜温泉に行っていますが、それにしても温泉地内は「パンダ色」が濃くなって来ました。どの売店にもパンダグッズがいっぱいです。「紀伊山地に野生のパンダが生息しているのではないか」と思ってしまいそうな勢いです。

白浜のパンダの生息地は言わずと知れた「アドベンチャーワールド」ですね。4頭のジャイアントパンダが飼育されていました。今まで上野で見たパンダは、いつもいじけているような感じであまり動きませんでしたが、ここの4頭は、木に登ったり、笹を食べまくったりと悠々自適に生活しているようでした。4頭とも間近でゆっくりと見ることができました。

巨体なのに木に登ぼるパンダ 「故郷中国を想っているのでしょうか」

ゆったりとした敷地内を動き回るアドベンチャーワールドのパンダ

温泉のことばかり考えていると、白浜へ行っても「アドベンチャーワールド」などというものは眼中に全くありませんでしたが、行って見ると面白いところでした。動物園なのか、水族館なのか、遊園地なのかよくわからない混沌とした所ですが、幕の内弁当的に楽しめる良さがあります。

パンダのアトラクションと言ったら「コレ」一択で決定!

温泉地に滞在してもらうためには、こういった施設も大切であるということを、今さら実感しました。

ホテルの売店に「パンダのぬいぐるみ」の「くじ」がありました。見ていた私の目の前で、おばちゃんが特賞を当てられ、大きなパンダのぬいぐるみを嬉しそうに抱きかかえて行かれました。パンダの白浜温泉で、おばちゃんが一人幸せになりました。