「単純」という言葉のイメージ
「おまえは本当に単純だ」と言われると、なんとなく情けない気分になります。落語に登場する、ちょっとお馬鹿でまぬけな「与太郎」みたいな‥‥。
念のため、「単純」という言葉を広辞苑第五版で引いてみました。
➀ 単一で他の要素のないこと。そのものばかりであること。純一。
② 構造・機能・考え方などが複雑でないこと。込み入ってないこと。簡単。
誤解されている「単純温泉」
前回書きました筆者によるアンケート調査(2004)の結果、「硫酸塩泉」と同様に「単純温泉」もかなり誤解されている泉質であることがわかりました。
「単純温泉とはどのような泉質ですか」という問いに対して、「一種類の成分だけが溶けている温泉」という回答が11%、「無色透明の温泉」が7%、「成分が何も溶けていない温泉」が6%、「単純な温泉」など、その他の誤った記載、「わからない」、「未記入」といった回答を合わせると75%で、ほぼ正しく認識している回答はわずか1%に過ぎませんでした。誤った回答の中には、「効能がない温泉」、「有難みがない温泉」など、否定的に受け止めている回答が目立ちました。
もちろん単純温泉は「温泉法 による規定を満たした25 ℃ 以上の温泉のうち、温泉1 ㎏中に含まれる気体以外の溶存物質の含有量が総量1g 未満の温泉 」と定義される温泉ですが、やはり、単純温泉の定義と、そのような温泉に「単純」という言葉が使用されていることのギャップといいますか、定義と言葉が乖離していることが誤認識につながっていると考えられます。
「単純温泉」の性格を読み取ることが大切
単純温泉という命名は、人間が便宜上線引きをした結果生まれたものにすぎません。同じ含有成分が1.0g/㎏であれば塩類泉となって陰イオンや陽イオンの主成分が泉質名として記載されますが、0.9g/㎏であれば単純温泉となって含有成分についての情報が泉質名から消されてしまいます。ほとんど同じ温泉なのに、境界値を設定して泉質名を無理やり分類するというやり方によって、片や「与太郎」のようなイメージの泉質名になってしまっている訳ですね。
単純温泉と言え、含有成分による泉質的な特徴を有するわけですので、量的には少ないかもしれませんが、含有成分の質的な表記も必要ではないかと思います。例えば、単純温泉ではあるけれどもナトリウムイオンや炭酸水素イオンを主成分とする場合、単純温泉(ナトリウム―炭酸水素塩 型)のような表記法にしたらどうかと思いますが、いかがでしょうか。
そもそも、問題の根本にあるのは、「温泉の泉質は10種類に分類できる」という、泉質名ありきの考え方です。泉質は十湯十色です。無限にある泉質をデジタル的に分類するのではなく、アナログ的に理解することが大切だと思います。
単純温泉。「simple hot springs」ではなく、「mild hot springs」の方がいいのではないでしょうか。
単純温泉の温泉地
単純温泉の温泉地には、道後温泉、下呂温泉、鹿教湯温泉、湯岐温泉、俵山温泉、カルルス温泉などなど、愛される温泉がいっぱいありますね。