泉質名を見たり聞いたりして、その本質を正しく理解してもらえればよいのですが、どうもそうではない現状があるようです。
少し古い話になりますが、筆者は、2004年に「温泉はどのように理解されているか」というアンケート調査を行い、その結果をまとめました。全国のさまざまな年齢層の男女を対象としました。
アンケートにはいろいろな項目がありましたが、その中で最も問題視されたのが、泉質名の理解でした。
アンケート結果に見る硫酸塩泉についての認識
「硫酸塩泉という泉質はどのような泉質ですか」という問いに対して、「硫黄くさい温泉」、「硫黄と食塩が混ざっている温泉」、「白く濁った温泉」など、硫黄泉をイメージした回答が18%見られました。「硫酸の入っている温泉」、「酸っぱい温泉」、「ひりひりする温泉」、「殺菌力がある温泉」、「肌が溶けそう」など、硫酸を含む強酸性泉をイメージした回答は15%、その他の認識やまったくわからないと回答したのが46%で、ほぼ正しく認識している回答は、わずか4%に過ぎませんでした。
硫酸塩泉には、ナトリウム―硫酸塩泉(芒硝泉)、カルシウム―硫酸塩泉(石膏泉)、マグネシウム―硫酸塩泉(正苦味泉)などがあります。
そもそも芒硝(ぼうしょう)とは、硫酸ナトリウムの10水和物などで、わが国の正式な医薬品の規格書である「日本薬局方」に生薬として位置づけられています。漢方では便秘薬として使われるそうです。皮膚への影響力が謳われることもあり、入浴剤として使われることも少なくありません。
石膏(せっこう)は硫酸カルシウムのことで、ギプスなどに使われるおなじみの物質です。これもまた日本薬局方に生薬として位置づけられています。生薬としては、解熱作用や、喉の渇きを抑える(止渇)作用があるとされています。
正苦味はせいくみと読みます。ただし、「しょうくみ」という読み方も使われてきました。硫酸マグネシウムの水和物のことで、医薬品としては、経口投与により下剤の薬として位置づけられています。そういえば、「ミネラルウォーターのコントレックスを飲むと便秘にいい」といったことをよく聞きますが、コントレックスにはマグネシウムイオンや硫酸イオンか多く含まれているので、下剤としての効果が期待できることは然りですね。
少し話がそれますが、これまで、泉質の適応症ではなく、主成分として含まれる物質の「医薬品としての効能」を述べてきました。そうなんです、薬機法(2014年薬事法から改訂)という法律があり、温泉は薬物ではないため、「○○に効く」、「○○に効果がある」というようなことは、薬機法の規定で記載してはいけないことになっているのです。すなわち効能を謳うこができません。そのため、「高血圧に適応がある」、つまり高血圧の方が温泉療養を行うのに適している泉質、すなわち 適応症 となどという回りくどい言い方をすることになっています。
硫酸塩泉の温泉地としては、すぐに思いつくだけでも、北陸の山代温泉や山中温泉、静岡の熱川温泉、群馬の伊香保温泉や四万温泉、湯宿温泉、島根の玉造温泉など、いっぱいあります。いずれも強酸性泉や硫黄泉のように刺激の強い温泉ではありませんね。
温泉旅館のホームページなどで、ちょっとだけでもその辺りの泉質の説明をしていただけると、正しい理解につながっていくのではないかと思います。