温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

遠くの山が白く見えるのは何故

雨が降らない日が続くと、遠くの景色が白っぽく「もや」がかかったようになります。特に山の景色を見ると、遠くの山ほど白く見えます。

蔵王から見た遠くの山の景色 遠くの山ほど白っぽく見える

空気中には、水蒸気や、PM2.5、塵(ちり)、黄砂などの小さな粒子状の物質がたくさん浮遊しています

太陽光が、空気中のこれらの粒子にぶつかると、すべての波長の光(すべての色の光)が散乱(ミー散乱)を起こすため、見ている私たちの目には白い光(昼間の太陽をまともに見た時と同じ色)となって飛び込んできます。光の散乱については、本ブログの「乳白色の温泉のメカニズム」を参照していただければと思います。

遠くの山ほどより白っぽく見えるのは、距離が長くなるので、空間がぶ厚くなります。すなわち、白い光の層が厚くなるので、より白く見えることになります。

岐阜県徳山村の冠峠から岐阜県側を写した風景 遠くの山ほど白っぽく見える

これからの春先の季節は、春霞と呼ばれるように、景色全体が「もや」がかかったように白くなります。これは、山の木々などの植物の蒸散作用が活発になり地上付近の水蒸気量が多くなることや、黄砂やPM2.5などが大陸から飛来するため、太陽光の散乱が激しくなるためだと考えられます。特に黄砂が大量に飛来する日には、黄砂の粒が大きいため、黄土色っぽいもやになります。天気が良くても、世の中がセピア色に色あせたような感じがするので、とっても嫌です。車も汚れるし‥‥。

黄砂が飛来した時の岐阜市の景色 中央は岐阜城のある金華山

顕著な黄砂の飛来がない岐阜市の景色(2024年2月27日)

 

黄砂の中身は、岩石を組織する石英や長石などの鉱物や、岩石に由来する粘土鉱物などで、大きさは直径が 4μm(マイクロメートル)ぐらいのものが一番多いそうです。1μm は 1mmの1000分の1です。

温泉中にごく普通に含まれるメタ珪酸などのコロイド粒子の一番大きいのが 1μm ぐらいですので、おおよそ似たような大きさです。

黄砂が飛来する経路(気象庁ホームページより引用)

黄砂は、大陸のタクラマカン砂漠ゴビ砂漠からはるばる4000kmもの距離を2、3日かけて飛んでくるそうで、そう聞けばロマンを感じますが、何しろ大気汚染物質をくっつけて飛んでくるからいけません。

大陸の大気が汚染されていなかった頃には、飛んでくる黄砂は日本の国土に降って結構いいミネラルになっていたのかもしれません。

 

 

 

温泉現象 「噴気塔」

富山県立山地獄谷には、熱水変質帯の灰色の地肌をむき出しにした噴気地帯が広範囲に広がっています。その中の「鍛冶屋地獄」と呼ばれる谷 底にある噴気地帯には、硫化水素や二酸化硫黄(亜硫酸ガス)が噴出する噴気孔が至る所に見られ、噴気孔の周りに火山ガスの成分である昇華硫黄が堆積し続け、それが高く塔状に成長してできた珍しい噴気塔 が見られました。一番高く成長した時には2mを越えました。

富山県立山地獄谷で見られた、昇華硫黄が高く成長してできた「噴気塔」

噴気塔が見られた立山地獄谷の鍛冶屋地獄 写真中央奥に噴気塔が見える

写真は、筆者が2002年に撮影したものです。この時には既に噴気し止まっていました。その後の写真を見ると、自然の侵食作用によって形か随分細く変形していました。炭酸カルシウムなどの温泉沈殿物によってできる噴泉塔とは違って、噴気塔をつくる昇華硫黄自体が軟らかく脆い(もろい)ため、自然の風雨にさらされることによって極めて侵食しやすいという特徴があります。原形を保ちにくい温泉造形物です。

ある資料によりますと、2011年の春にこの場所で火災が発生し、それによって噴気塔が見られなくなってしまったようです。大変珍しく貴重な温泉現象であっただけに、とっても残念で仕方がありません。

「地獄」や「地獄谷」と呼ばれるような噴気地帯では、火山ガスから析出した純度の高い硫黄が「硫黄華」となって大量に堆積することがあるため、かつては硫黄を採取する鉱山であった場所も少なくありません。岩手県松尾鉱山群馬県草津温泉の万代鉱、群馬県万座温泉の小串硫黄鉱山、秋田県の川原毛地獄の川原毛硫黄鉱山などがよく知られています。

かつて硫黄鉱山として硫黄が採掘されていた秋田県川原毛地獄

 

 

温泉博物学 「温泉細工」

温泉スケールを逆手に取って生まれた「温泉細工」

温泉地に行ってお土産を探すのも楽しみの一つです。特にその土地ならではのお土産に出会えればうれしくなります。

炭酸カルシウムでコーティングされてできた土産用「温泉細工」

上の写真は、またまた下呂発温泉博物館に展示されている「温泉細工」などと呼ばれる温泉地オリジナルのお土産です。

一番手前は北海道の二股ラジウム温泉の温泉細工です。オロナミンCなどの空き瓶(廃棄物)に温泉水を振りかけ続けて温泉成分(炭酸カルシウム)を付着させてできたものです。まるで焼き物のようです。1本500円でお土産として売られていました。空き瓶は「捨てればただのゴミ」です。ゴミに、しかも温泉施設で嫌われ者の温泉スケール(石灰華)を沈着させ、温泉ならではの土産物を生み出すとは、よく考えたものです。

空き瓶に温泉水を振りかけて作った二股ラジウム温泉の「温泉細工」

その奥の丸っこい一輪ざしのような物は、大分県長湯温泉で売られていたものです。素焼きの器に、これもまた炭酸カルシウムが豊富でわずかに鉄分が含まれた温泉水を振りかけて作られた味わいのある温泉細工です。高級焼き物のような味わい深い趣がありますね。

さらにその奥のよくわからない形をした茶色い物体は、チェコのカルロビバリ温泉のお土産として売られていた温泉細工です。バラの一輪挿しのようにつくられた紙製品(ペーパーフラワー)に、これもまた温泉水を振りかけて炭酸カルシウムをコーティングして作られたもので、前出の二股ラジウム温泉のものと同じ作り方です。

温泉ではないけれど石灰華にコーティングされたもの

高知県香美市にある鍾乳洞「龍河洞」内からは弥生時代の遺跡が見つかっており、弥生式土器も見つかっています。鍾乳洞内に放置され続けた弥生土器は、鍾乳石類をつくるもととなる「炭酸カルシウム」をたくさん含んだ水が降りかかり続けることにより、写真のように石灰華でコーティングされた壺になり、龍河洞のシンボルとしてよく知られるところとなりました。

龍河洞のシンボルの炭酸カルシウムでコーティングされた弥生土器

近年実験用に龍河洞に置かれた壺 炭酸カルシウムが付着してきている

炭酸カルシウムにコーティングされると、不思議な魅力が生まれるようです。

 

温泉に関わる国の天然記念物

「天然記念物」および「特別天然記念物

わが国では、文化財保護法にもとづいて、「学術上貴重で日本の自然を記念する動物,植物、地質鉱物および天然保護区域」を天然記念物に指定しています。さらに、その中で「世界的にまたは国家的に価値が高いもの」を特別天然記念物に指定しています。

2024年2月10日現在、国の天然記念物には1,038件が指定されており、このうち75件が特別天然記念物に指定されています。「天然記念物」は人文系文化遺産では重要文化財級、「特別天然記念物」は国宝級に相当する位置づけです。

温泉に関わる天然記念物

温泉に関しては、平成25年に新しく「新湯の玉滴石産地(富山県)」が天然記念物に指定され、現在、12件が「地質鉱物」または「植物」という範疇で天然記念物または特別天然記念物に指定されています。古い資料や古い資料を孫引きしてまとめられた資料等には、平成の時代になって新しく指定された「新湯の玉滴石産地(富山県)」や「オンネトー湯の滝マンガン酸化物生成地(北海道)」が一覧表から漏れていることが多いので気を付けてください。温泉に関わる指定を次の表にまとめてみました。


天然記念物指定内容は、噴泉や間欠泉などの温泉現象や、噴泉塔、噴湯丘、珪華や石灰華ドーム、膠状珪酸(こうじょうけいさん)、球状石灰華、鮞状珪石(じじょうけいせき)、北投石二酸化マンガンなどの温泉沈殿物やその場所です。平成12年に指定を受けた「オンネトー湯の滝マンガン酸化物生成地」は、温泉中に棲息する糸状藻類やマンガン酸化細菌などの微生物が二酸化マンガンという鉱物の生成に関与しているとして、「地質鉱物」と「植物」の双方から指定をされています。

特別天然記念物北投石」(秋田県玉川温泉産) 筆者撮影

玉川温泉北投石の説明看板

岩手県夏油(げとう)温泉 特別天然記念物夏油温泉の石灰華ドーム天狗岩」

石川県岩間温泉 特別天然記念物「岩間の噴泉塔」

平成26年に新しく指定された「新湯の玉滴石産地(富山県)」は、立山の新湯という温泉が湧き出す熱湯の池の底に美しい透明で球状の玉滴石(オパールの一種)が生成されます。砂粒を核としてその周りに温泉成分の二酸化ケイ素が析出してできる大変珍しい鉱物です。

天然記念物「玉滴石」(富山県立山新湯産)  下呂発温泉博物館展示

温泉に関する天然記念物の現状と保護

12件の指定対象は、温泉の自然湧出に関係するため、いずれの立地場所も河川や谷およびその周辺に限られているのが大きな特徴です。そのため、自然の風水害や斜面災害による影響を被りやすく、天然記念物の維持や保護という点での困難性が避けられないものばかりです。

平成になってから指定を受けた2件を除くと、大半が大正~戦前に指定を受けたものであり、指定後少なくとも50年以上という歳月の経過は、天然記念物に大きな変化をもたらしています。

特別天然記念物に指定されている宮城県大崎市の「鬼首の雌釜および雄釜間欠泉」は、現在、完全に消失しています。

大正13年に天然記念物に指定された秋田県湯沢市の「秋ノ宮の噴泉塔」は、温泉が湧出して流下する場所に生成されていたため、生成後100年以上も経て完全に消失しています。といいますか、もともとそこにあったのは噴泉塔ではなかったのではと思われます。

秋田県秋の宮温泉の天然記念物「噴泉塔」があったと思われる場所

一般に噴泉塔は筍状の形態を成すために風水害に弱く、ある程度の高さまで成長すると破損してしまうことがしばしばですが、同じく天然記念物に指定されている栃木県栗山村の「湯沢噴泉塔」も、大正11年の指定後に成長と破損を繰り返し、幾度となく形態を変化させてします。

長野県大町市の「高瀬渓谷の噴湯丘」は、大正11年の指定当時の形態が噴湯丘であったものが、その後の比較的安定した成長により、2010年現在では高さが5mを超える釣り鐘状の噴泉塔に変化していて、指定名称との間に相違がみられるようになっています。

特別天然記念物「高瀬渓谷の噴湯丘」 (長野県湯俣温泉)

「球状石灰石」という名称がつけられていますが、「石灰石」というのは科学用語ではなく、石灰岩の「鉱業用の鉱石名(経済用語)」ですので、正しくは「球状石灰華」とすべきところでした。

白骨温泉や高瀬渓谷で産出する球状石灰石玉川温泉で産出する北投石、秋ノ宮で産出する鮞状珪石などの小型の天然記念物は、一部は博物館等に収蔵されているものの、多くが乱獲されて散逸し、天然記念物でありながら、どこでどのように保存されているのか情報が整理されておらず、保護の状況も把握できていないというのが現状です。以前、某有名旅館が経営困難になった時、家宝として大切にされていた大きな特別天然記念物北投石」が、100万円でメルカリに出品されていたのを見ました。その後どうなったのかはわかりません。

現在、北投石や鮞状珪石(秋の宮産)などは秋田大学鉱業博物館に展示されています。また、下呂発温泉博物館には、北投石、球状石灰華(湯俣温泉産)、玉滴石(新湯産)などが展示されています。

 

温泉現象 「泡沸泉」

沸騰した熱い温泉かと思いきや‥‥

長崎県雲仙岳の麓の海岸沿いには、熱い源泉で知られる小浜温泉があります。源泉温度をいろいろな温泉分析書で確認してみると、何といずれも100℃前後でした。

そんな小浜温泉街の一角に「炭酸泉」という看板があり、ポケットパークのように整備された敷地内に、ボコボコと音を立てながら温泉が湧き出す小さな泉源があります。囲いも何もなく、「外で勝手に湧き出している」という感じです。

長崎県小浜温泉の「炭酸泉」と呼ばれる泡無沸泉

何しろ熱い小浜温泉地内で「ボコボコと音と泡を出しながら湧き出している」ので、沸騰しているのと勘違いしてしまいますが、実際に手を突っ込むと冷んやりとし、全然熱くありません。それもそのはずです。湧き出しているのは26℃ぐらいの二酸化炭素泉で、ボコボコと言う泡の正体は沸騰ではなく、二酸化炭素の泡なのです。このように、多くの二酸化炭素炭酸ガス)の泡とともに湧き出す温泉を泡沸泉(ほうふつせん)といいます。

小浜温泉の「炭酸泉」のある整備された一画

「山の温泉」である雲仙温泉を満喫した後は、「海の温泉」の小浜温泉へ。山と海の温泉を楽しめる贅沢なエリアですね。

 

 

温泉現象 「間欠泉」

間欠泉とは

噴泉のうち、ある一定の時間間隔をおいて湧き出す温泉現象を間欠泉と言います。間欠泉はさらに、地下の空間内の水蒸気圧によって噴出する間欠沸騰泉と、地下の空間内の炭酸ガス圧によって噴出する間欠泡沸泉とに分類されます。

木部谷間欠泉(島根県) 炭酸ガスの圧力によって噴出する稀少な間欠泡沸泉です

鬼首吹上間欠泉「弁天」(宮城県) 観光用に有料公開されています

川俣温泉間欠泉(栃木県) 現在活動が停止しているようです (写真は半田実氏提供)

広河原間欠泉(山形県) 間欠泉のある浴槽に浸かれましたが、現在施設閉鎖中です

諏訪湖間欠泉(長野県) かつて50m程吹き上げましたが、活動が完全に停止しました

後ろ側の掲示 そもそも定時に6回噴出って? しかも6回目は4月1日~9月30日限定って?

「どういう事?」って聞かずに、「裏の事情」を読み取りましょう!

別府鉄輪温泉竜巻地獄間欠泉(大分県) 地獄めぐりの一つとして観光用に公開しています

間欠泉の周期性をもった湧出現象が起こるしくみは、「空洞説」や「垂直管説」などによって説明されています。

空洞説による間欠泉の説明

間欠泉の地下には地下水がたまる空洞があり、周辺(または地下深く)からの熱によって空洞内の地下水が温められます。地下水の温度が上昇するとやがて沸騰し、水蒸気の圧力が高くなって地上の噴気孔より熱水や水蒸気が激しく噴出します。噴出後は空洞内の地下水がなくなり圧力が低下します。しばらくしてまた地下水がたまり、温められて噴出します。このようなサイクルを繰り返すために、一定の周期による噴出現象が見られる訳です。間欠泉が熱水や水蒸気などを噴出する周期は、空洞の大きさや地下水のたまる速さ、温められる熱の量などによって、それぞれの間欠泉によって異なります。

垂直管説による間欠泉の説明

垂直管説は、間欠泉の地下は地下水のたまる垂直な管状になっていて下の方の地下水が温められ沸騰すると管の中を上昇して地上の噴出孔から熱水や水蒸気などを噴き上げるというものです。噴出後には再び管の下の方に地下水がたまり、一定周期で噴出を繰り返します。この説は、コーヒーのサイフォンの原理で説明されます。

噴出する周期が長く大規模な間欠泉は空洞説によって、周期が短く小規模な間欠泉は垂直管説によって説明できることが多いと言われています。

稀少な「水柱を伴う」間欠泉

間欠泉の中でも、何mもの水柱ができるように吹き上げるものは珍しく、全国的にも数えるほどしかありません。さらに天然の間欠泉となると、熱海の「大湯間欠泉」や、国の特別天然記念物に指定されている宮城県鬼首の「雌釜・雄釜間欠泉」くらいでしょうか。その他の活動中の主な間欠泉は、温泉を掘削したら「間欠泉として湧き出した」もので、人工的な開発に由来する自然現象の間欠泉と言えるでしょう。

熱海の大湯間欠泉は既に大正14年頃から枯渇しており、現在は「間欠泉跡」のモニュメントとして整備されているにすぎません。ボタンを押すと、人工的に噴き出すように作られています。

「熱海大湯間欠泉」跡(静岡県) かつて日本を代表する天然の間欠泉でした

何と、国指定特別天然記念物が消失していた!!

特別天然記念物の「雌釜・雄釜間欠泉」は、45年以上前から活動を停止していることが報告されていましたが、2022年に筆者が行った調査により、「間欠泉が停止している」どころか、土砂に覆われ、その上部に植物が繁茂し、間欠泉は完全に消失していることが明らかになりました。「現役の特別天然記念物が」ないんです!くどいようですが、特別天然記念物と言えば、人文系の資料なら国宝級に相当するものです。

活動をしていた頃の特別天然記念物「雄釜」(宮城県)の写真(筆者所有絵葉書による)

土砂に埋もれて消失した特別天然記念物「雄釜」周辺 上の絵葉書と同じ場所です

特別天然記念物「雄釜」の湧出孔があった場所 孔を囲む石が顔をのぞかせています

特別天然記念物「雌釜・雄釜」へのアプローチ 台風で遊歩道はくずれ道がありません

全国の主な間欠泉を一覧表にまとめてみました

「間欠泉」は、温泉現象の中でもとりわけ不安定で、消長が激しい自然です。将来的に見た時、今のままずっと活動が続くのかどうか、大きな不安が残ります。

例えば島根県木部谷間欠泉場合、現在、最も安定的な活動を継続し、未来へその価値を引きつぐことが託されている貴重な間欠泉だと思うのですが、個人所有のため保護や活用に向けての施策には限界があります(かなり努力をして管理・公開をしてくださっているのですが)。ここで今一度、行政にも改めてその重要性を認識していただき、将来への展望を切り開いてほしいと切に願うところです。

 

温泉現象 「噴泉」

温泉が自然に湧き出す時の「湧き出し方」にもさまざまな形態があります。
熱湯と水蒸気が一緒になって噴水のように勢いよく噴出し続ける温泉現象を噴泉(ふんせん)と言います。地下に高温の水蒸気を含む熱湯が存在し、温泉の湧き出し口の穴(孔隙)が小さいと、地下の熱湯がたまっている空間の圧力が高くなるため、小さな孔隙からゴーという激しい音を出したり、しぶきを飛ばしたりしながら勢いよく温泉を噴き出し続けます。噴泉には、空に向かって垂直方向へ噴き出すタイプもあれば、地層の層理面等に沿って水平方向へ噴き出すタイプもあります

垂直方向に吹き上げる噴泉

渋温泉地獄谷の噴泉 国指定天然記念物。後ろの一軒宿は地獄谷温泉「後楽館」

噴泉の近くに近づくと、轟音や水しぶき(熱湯しぶき)で臨場感いっぱいです

長野県渋温泉の奥にある地獄谷には、轟音を響かせながら勢いよく熱湯や水蒸気を空に向かって吹き上げ続けている噴泉があります。噴き上げる高さはいつも同じではありませんが、高い時は20m程の水柱となります。大変希少な温泉現象であるとして、昭和2年に『渋の地獄谷噴泉 』という名称で国の天然記念物に指定されました。過去に停止した記録はあるものの、とにかく今もなお噴出を止めることもなく、ずーと勢いよく吹き出し続けているということは、すごいと思います。いつまでもこのような状況が保たれるように願うばかりです。「噴泉を止めるな!」です。

噴泉の対岸には一軒宿の旅館「後楽館」があります。この旅館の混浴露天風呂の目の前に噴泉がありますので、日帰り入浴で噴泉を眺めながら湯に浸かることも乙なものです。私はその露天風呂で猿と混浴しました。私が入っていたら、さりげなく猿が入って来て、お互い会話もなく(当たり前ですね)、知らんふりしながら、緊張感のある時間を過ごしました。

世界的に有名になった地獄谷野猿公苑の猿の露天風呂

噴泉のある場所よりさらにその奥には、猿が温泉に浸かることで知られる野猿公苑の猿専用の露天風呂があります。ここのサルたちは「スノーモンキー」という愛称で世界的に有名で、雪の季節には世界各地から観光客が訪れます。温泉に浸かるお猿さんたちを見るために、国の天然記念物「渋の噴泉」の横を見向きもしないで通り過ぎていく観光客。せっかく「ゴー」と轟音をたてて「私を見て!」とアピールしているのに、なんだかかわいそうな気がします。

猿の露天風呂の脇には、猿の温泉入浴の様子を見るためのライブカメラが設置してありますので、「猿を見学している自分の姿」が世界に向けてさらされないように気をつけないといけません。

水平方向に吹き出し続ける噴泉

秋田県景勝地である小安峡(おやすきょう)には、「大噴湯(だいふんとう)」と呼ばれる噴泉があります。崖(がけ)の至る所から高温の蒸気や熱湯が激しい音とともに水平方向に噴出し続けている大変珍しいタイプの噴泉です。近くでその様子を目の当たりにすると、まさに圧巻です。

水平方向に激しく噴き出す噴泉「大噴湯」

岩石の割れ目から水平方向に激しく熱湯や水蒸気を噴き出している

水平方向へ噴き出すようす

「大噴湯」が見られる皆瀬川岸には遊歩道が整備されていて、安全に見学できるようになっています。小安峡温泉の温泉街や道路から川岸の遊歩道までは、200段ほどの階段でおよそ60mを下ってたどり着くことになり、けっこうな労力が必要ですが、一見の価値がありますので、ぜひ近くまで行って見ていただきたいと思います。

しかし、これだけ稀少な価値を有する温泉現象が天然記念物に指定されていないのが不思議でたまりません。