少し前ですが、新聞に「温泉文化」をユネスコ無形文化遺産に登録することをめざす知事の会が発足したという記事がありました。また、日本温泉科学会においても、温泉文化の登録に関するシンポジウムが開かれたことがあります。各界で登録への機運が高まってきているようです。
大切なことは、温泉が「ユネスコ無形文化遺産に登録される」ことによって「箔がつき、ブランド化する」ことを願うのではなく、「確かな温泉文化がまっとうに継承されていく」ための共通認識をもち合わせ、今後の確固たる方向性を見出すことではないかと思います。
例えば、草津温泉では「時間湯の湯長の営みが医師法に触れる可能性がある」という大義名分のもとで時間湯の湯長制(実質的には時間湯)という温泉文化を廃止しましたが、むしろこういった状況を回避するために「ユネスコ登録」が意味と効力を成すのかもしれません。
「ユネスコ無形遺産登録」のあかつきには、全国の温泉地や温泉施設に「祝 ユネスコ登録」の「のぼり旗」が立ち並び、温泉地がお祭り騒ぎになることは必至です。そして、のぼり旗が色あせる頃には、ユネスコ登録という言葉も世の中からすっかり消えている、そういった光景が目に見えています(テレビ放映中だけ盛り上がる大河ドラマ館のように)。
ユネスコ登録による「ブランド化」が、海外の富裕層相手のビジネスの呼び水に使われ、結果的に温泉文化が壊わされては本末転倒です。粗悪な温泉文化の温床を生み出すことは避けなければいけません。本物の温泉文化が末永く存続し続けられるような「環境整備の機会」として受け止めることこそがユネスコ無形世界遺産への登録の意義であると思います。
奇をてらうことなく、なくてはならない本物の温泉文化を地道に守っていくためのユネスコ登録なら、私も全力で応援したいと思います。
登録記念として、国立温泉博物館なんかができたらいいなあと、密かに期待しています。