温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

温泉現象 「噴泉」

温泉が自然に湧き出す時の「湧き出し方」にもさまざまな形態があります。
熱湯と水蒸気が一緒になって噴水のように勢いよく噴出し続ける温泉現象を噴泉(ふんせん)と言います。地下に高温の水蒸気を含む熱湯が存在し、温泉の湧き出し口の穴(孔隙)が小さいと、地下の熱湯がたまっている空間の圧力が高くなるため、小さな孔隙からゴーという激しい音を出したり、しぶきを飛ばしたりしながら勢いよく温泉を噴き出し続けます。噴泉には、空に向かって垂直方向へ噴き出すタイプもあれば、地層の層理面等に沿って水平方向へ噴き出すタイプもあります

垂直方向に吹き上げる噴泉

渋温泉地獄谷の噴泉 国指定天然記念物。後ろの一軒宿は地獄谷温泉「後楽館」

噴泉の近くに近づくと、轟音や水しぶき(熱湯しぶき)で臨場感いっぱいです

長野県渋温泉の奥にある地獄谷には、轟音を響かせながら勢いよく熱湯や水蒸気を空に向かって吹き上げ続けている噴泉があります。噴き上げる高さはいつも同じではありませんが、高い時は20m程の水柱となります。大変希少な温泉現象であるとして、昭和2年に『渋の地獄谷噴泉 』という名称で国の天然記念物に指定されました。過去に停止した記録はあるものの、とにかく今もなお噴出を止めることもなく、ずーと勢いよく吹き出し続けているということは、すごいと思います。いつまでもこのような状況が保たれるように願うばかりです。「噴泉を止めるな!」です。

噴泉の対岸には一軒宿の旅館「後楽館」があります。この旅館の混浴露天風呂の目の前に噴泉がありますので、日帰り入浴で噴泉を眺めながら湯に浸かることも乙なものです。私はその露天風呂で猿と混浴しました。私が入っていたら、さりげなく猿が入って来て、お互い会話もなく(当たり前ですね)、知らんふりしながら、緊張感のある時間を過ごしました。

世界的に有名になった地獄谷野猿公苑の猿の露天風呂

噴泉のある場所よりさらにその奥には、猿が温泉に浸かることで知られる野猿公苑の猿専用の露天風呂があります。ここのサルたちは「スノーモンキー」という愛称で世界的に有名で、雪の季節には世界各地から観光客が訪れます。温泉に浸かるお猿さんたちを見るために、国の天然記念物「渋の噴泉」の横を見向きもしないで通り過ぎていく観光客。せっかく「ゴー」と轟音をたてて「私を見て!」とアピールしているのに、なんだかかわいそうな気がします。

猿の露天風呂の脇には、猿の温泉入浴の様子を見るためのライブカメラが設置してありますので、「猿を見学している自分の姿」が世界に向けてさらされないように気をつけないといけません。

水平方向に吹き出し続ける噴泉

秋田県景勝地である小安峡(おやすきょう)には、「大噴湯(だいふんとう)」と呼ばれる噴泉があります。崖(がけ)の至る所から高温の蒸気や熱湯が激しい音とともに水平方向に噴出し続けている大変珍しいタイプの噴泉です。近くでその様子を目の当たりにすると、まさに圧巻です。

水平方向に激しく噴き出す噴泉「大噴湯」

岩石の割れ目から水平方向に激しく熱湯や水蒸気を噴き出している

水平方向へ噴き出すようす

「大噴湯」が見られる皆瀬川岸には遊歩道が整備されていて、安全に見学できるようになっています。小安峡温泉の温泉街や道路から川岸の遊歩道までは、200段ほどの階段でおよそ60mを下ってたどり着くことになり、けっこうな労力が必要ですが、一見の価値がありますので、ぜひ近くまで行って見ていただきたいと思います。

しかし、これだけ稀少な価値を有する温泉現象が天然記念物に指定されていないのが不思議でたまりません。