富山県立山地獄谷には、熱水変質帯の灰色の地肌をむき出しにした噴気地帯が広範囲に広がっています。その中の「鍛冶屋地獄」と呼ばれる谷 底にある噴気地帯には、硫化水素や二酸化硫黄(亜硫酸ガス)が噴出する噴気孔が至る所に見られ、噴気孔の周りに火山ガスの成分である昇華硫黄が堆積し続け、それが高く塔状に成長してできた珍しい噴気塔 が見られました。一番高く成長した時には2mを越えました。
写真は、筆者が2002年に撮影したものです。この時には既に噴気し止まっていました。その後の写真を見ると、自然の侵食作用によって形か随分細く変形していました。炭酸カルシウムなどの温泉沈殿物によってできる噴泉塔とは違って、噴気塔をつくる昇華硫黄自体が軟らかく脆い(もろい)ため、自然の風雨にさらされることによって極めて侵食しやすいという特徴があります。原形を保ちにくい温泉造形物です。
ある資料によりますと、2011年の春にこの場所で火災が発生し、それによって噴気塔が見られなくなってしまったようです。大変珍しく貴重な温泉現象であっただけに、とっても残念で仕方がありません。
「地獄」や「地獄谷」と呼ばれるような噴気地帯では、火山ガスから析出した純度の高い硫黄が「硫黄華」となって大量に堆積することがあるため、かつては硫黄を採取する鉱山であった場所も少なくありません。岩手県の松尾鉱山、群馬県草津温泉の万代鉱、群馬県万座温泉の小串硫黄鉱山、秋田県の川原毛地獄の川原毛硫黄鉱山などがよく知られています。