温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

温泉に関わる国の天然記念物

「天然記念物」および「特別天然記念物

わが国では、文化財保護法にもとづいて、「学術上貴重で日本の自然を記念する動物,植物、地質鉱物および天然保護区域」を天然記念物に指定しています。さらに、その中で「世界的にまたは国家的に価値が高いもの」を特別天然記念物に指定しています。

2024年2月10日現在、国の天然記念物には1,038件が指定されており、このうち75件が特別天然記念物に指定されています。「天然記念物」は人文系文化遺産では重要文化財級、「特別天然記念物」は国宝級に相当する位置づけです。

温泉に関わる天然記念物

温泉に関しては、平成25年に新しく「新湯の玉滴石産地(富山県)」が天然記念物に指定され、現在、12件が「地質鉱物」または「植物」という範疇で天然記念物または特別天然記念物に指定されています。古い資料や古い資料を孫引きしてまとめられた資料等には、平成の時代になって新しく指定された「新湯の玉滴石産地(富山県)」や「オンネトー湯の滝マンガン酸化物生成地(北海道)」が一覧表から漏れていることが多いので気を付けてください。温泉に関わる指定を次の表にまとめてみました。


天然記念物指定内容は、噴泉や間欠泉などの温泉現象や、噴泉塔、噴湯丘、珪華や石灰華ドーム、膠状珪酸(こうじょうけいさん)、球状石灰華、鮞状珪石(じじょうけいせき)、北投石二酸化マンガンなどの温泉沈殿物やその場所です。平成12年に指定を受けた「オンネトー湯の滝マンガン酸化物生成地」は、温泉中に棲息する糸状藻類やマンガン酸化細菌などの微生物が二酸化マンガンという鉱物の生成に関与しているとして、「地質鉱物」と「植物」の双方から指定をされています。

特別天然記念物北投石」(秋田県玉川温泉産) 筆者撮影

玉川温泉北投石の説明看板

岩手県夏油(げとう)温泉 特別天然記念物夏油温泉の石灰華ドーム天狗岩」

石川県岩間温泉 特別天然記念物「岩間の噴泉塔」

平成26年に新しく指定された「新湯の玉滴石産地(富山県)」は、立山の新湯という温泉が湧き出す熱湯の池の底に美しい透明で球状の玉滴石(オパールの一種)が生成されます。砂粒を核としてその周りに温泉成分の二酸化ケイ素が析出してできる大変珍しい鉱物です。

天然記念物「玉滴石」(富山県立山新湯産)  下呂発温泉博物館展示

温泉に関する天然記念物の現状と保護

12件の指定対象は、温泉の自然湧出に関係するため、いずれの立地場所も河川や谷およびその周辺に限られているのが大きな特徴です。そのため、自然の風水害や斜面災害による影響を被りやすく、天然記念物の維持や保護という点での困難性が避けられないものばかりです。

平成になってから指定を受けた2件を除くと、大半が大正~戦前に指定を受けたものであり、指定後少なくとも50年以上という歳月の経過は、天然記念物に大きな変化をもたらしています。

特別天然記念物に指定されている宮城県大崎市の「鬼首の雌釜および雄釜間欠泉」は、現在、完全に消失しています。

大正13年に天然記念物に指定された秋田県湯沢市の「秋ノ宮の噴泉塔」は、温泉が湧出して流下する場所に生成されていたため、生成後100年以上も経て完全に消失しています。といいますか、もともとそこにあったのは噴泉塔ではなかったのではと思われます。

秋田県秋の宮温泉の天然記念物「噴泉塔」があったと思われる場所

一般に噴泉塔は筍状の形態を成すために風水害に弱く、ある程度の高さまで成長すると破損してしまうことがしばしばですが、同じく天然記念物に指定されている栃木県栗山村の「湯沢噴泉塔」も、大正11年の指定後に成長と破損を繰り返し、幾度となく形態を変化させてします。

長野県大町市の「高瀬渓谷の噴湯丘」は、大正11年の指定当時の形態が噴湯丘であったものが、その後の比較的安定した成長により、2010年現在では高さが5mを超える釣り鐘状の噴泉塔に変化していて、指定名称との間に相違がみられるようになっています。

特別天然記念物「高瀬渓谷の噴湯丘」 (長野県湯俣温泉)

「球状石灰石」という名称がつけられていますが、「石灰石」というのは科学用語ではなく、石灰岩の「鉱業用の鉱石名(経済用語)」ですので、正しくは「球状石灰華」とすべきところでした。

白骨温泉や高瀬渓谷で産出する球状石灰石玉川温泉で産出する北投石、秋ノ宮で産出する鮞状珪石などの小型の天然記念物は、一部は博物館等に収蔵されているものの、多くが乱獲されて散逸し、天然記念物でありながら、どこでどのように保存されているのか情報が整理されておらず、保護の状況も把握できていないというのが現状です。以前、某有名旅館が経営困難になった時、家宝として大切にされていた大きな特別天然記念物北投石」が、100万円でメルカリに出品されていたのを見ました。その後どうなったのかはわかりません。

現在、北投石や鮞状珪石(秋の宮産)などは秋田大学鉱業博物館に展示されています。また、下呂発温泉博物館には、北投石、球状石灰華(湯俣温泉産)、玉滴石(新湯産)などが展示されています。