温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

いわゆる「黒湯」と言われる温泉について

「黒湯」はなぜ黒いのか

東京湾周辺の地域では、昔から「黒湯」と呼ばれる透明感のある黒褐色~褐色(琥珀色)を呈する温泉が湧き出しています。

在りし日の「麻布十番温泉」の黒湯


北海道の十勝川温泉では、このような褐色の温泉を「全国的にも珍しいモール温泉」として売り出してきました。決して全国的に珍しい訳ではありませんが、結果として「このような琥珀色の温泉」の概念と、「モール温泉」という造語を広めることになりました。

このような「黒湯」とか「モール泉」などと呼ばれる温泉は、地下の地層中に埋没した「海藻や水辺の葦などの太古の植物」が、バクテリアなどの微生物によって時間をかけて分解され、その結果生成された「フミン酸などの腐植質成分(有機物)」を含む温泉であると定義づけられます。

水に溶けたフミン酸は、光を吸収する性質があるため、「フミン酸を含む温泉の浴槽」に光が注ぐと、光は吸収されて浴槽内は暗黒世界になっていきます。その結果、透明感のある黒色や褐色に見える訳です。

 

「黒湯」はなぜつるつるの温泉になるのか

地層中に埋没した植物がバクテリアなどの微生物の餌となって分解されてフミン酸が生成される時に、微生物は大量の二酸化炭素を排出します。

この二酸化炭素が水中に溶けると炭酸になり、炭酸が炭酸水素イオンと水素イオンに解離して、炭酸水素イオンができ、水中に蓄積されていきます。

海生の地層ですので、海水由来のナトリウムイオンはもともと多く含まれていますので、こうして、ナトリウムイオンと炭酸水素イオンとからなる重曹泉ができあがる訳です。

いわゆる「黒湯」や「モール温泉」タイプが、つるつるの重曹泉であるのは、こうした理由からです。

 

地層中に閉じ込められた海藻などの有機物にはもともとアミノ酸が含まれています。アミノ酸には硫黄が含まれているため、地層中でバクテリアによって分解される際に硫黄が分離して、硫化水素が発生します。

 「黒湯」や「モール泉」の場合は、比較的分解の程度が低いので、少量の硫化水素を伴うことになり、「かすかな硫化水素臭を有する」温泉になります。

 

このような「黒湯」や「モール温泉」は、有機物を多く含むため、浴槽の水面に白い泡が立ちやすいことも特徴の一つですね。

 

海進や海退といった地球規模の現象や、長い年月をかけた様々な化学反応を経て「黒湯」がつくられたことを考えながら浸かる「ひとっ風呂」は、とっても感慨深いものですね。

「日本一黒い」?という掲示があった青森県東北温泉