温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

温泉博物学 「硫黄系の液体入浴剤」

温泉と薬機法(やっきほう)

以前は「薬事法」と言っていた法律が、2014年に「薬機法」に改正されました。正確には、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と言います。

温泉は薬物ではないので効能が言えない

温泉は、薬物ではないので、薬機法の規定により「○○に効く」、「○○に効果がある」というようなことは記載してはいけないことになっています。ましてや、「○○が治る」となどと言ってはいけません

そのため、温泉の場合は「神経痛に適応がある」、つまり神経痛の人が温泉療養を行うのに適している泉質ということで 適応症 というまわりくどい言い方になります。

入浴剤は効能が言える

かつて草津温泉資料館に展示されていた液体入浴剤のポスター

入浴剤は薬機法によって規制されていて、使用目的や成分等により「入浴用化粧品」と「医薬部外品」に分類されます。かつては「ムトウハップ(六一〇ハップ)」が入浴剤唯一の「医薬品」として認められ、薬として疥癬(かいせん)というダニによる皮膚病の治療にも使われていました。残念ながら、ムトウハップの極めて不適切な使用が世間に広がり、製造自粛要請を受けて、ついに2008年に製造中止となってしまいました。私は、「家庭の風呂が手軽に白濁した硫黄泉のようになる」ムトウハップの大ファンであったため、本当に残念でたまりません。

入浴剤は温泉と違って決められた範囲で効能を言うことができます

販売中止になったムトウハップ(六一〇ハップ) 唯一の医薬品であった

入浴用化粧品

入浴用化粧品に分類される入浴剤は、 「人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚もしくは毛髪を健やかに保つために、身体に 塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されるもの、人体に対する作用が緩和なもの」と定義されています。そして次の効能を表示することができます。

「汚れを落とし皮膚を清浄にする」

「皮膚をすこやかに保つ」

「皮膚にうるおいを与える」に限定

医薬部外品

医薬部外品に分類されるに入浴剤は「正常な使用方法の下で人体に強い作用を及ぼさないもの」と定義されています。表示できる効能は次のようです。

あせも・荒れ性・うちみ(打ち身)・肩のこり(肩の凝り)・くじき・神経痛・しっしん(湿しん)・しもやけ・痔・冷え症・腰痛・リウマチ・疲労回復・ひび・あかぎれ・産前産後の冷え症・にきびの範囲であり、成分によって、いんきん・たむし・水虫・ひぜん・疥癬

ムトウハップとよく似た硫黄系の液体入浴剤として、別府温泉の「湯の素」や、草津温泉の「草津温泉ハップ」が販売されています。いずれもムトーハップ同様、多硫化イオンと酸化カルシウムを配合した黄色い液体で、浴槽に入れると白濁し硫黄泉のような匂いが楽しめのます。「医薬部外品」として、上記のような効能が表示されています。

草津温泉ハップは長い間製造を休止していましたが、2021年に製造が再開されました。とてもありがたいことです。

別府の「湯の素」 医薬部外品に分類され、効能が表示できる

医薬品

該当する入浴剤はなし(だと思いました)。