「地獄」は温泉天国です
火山活動が活発な所では、岩肌がむき出しになった荒涼とした大地の至る所から火山ガスを噴き上げ、温泉がボコボコと湧き出すような風景を目にすることがあります。
そのような一帯は、地熱や、様々な成分を含んだ酸性の熱水(温泉水)の影響で、もともとの硬い岩石が「温泉余土(おんせん)」と呼ばれる、やわらかく白っぽい粘土鉱物などに変質しています。その結果、周辺一帯が白く殺伐とした景観になります。
このような場所を地質的には「熱水変質帯」と呼びます。また、景観的には「噴気地帯」などと呼ぶこともあります。
「噴気地帯の殺伐とした景観の中で、ボコボコと温泉が湧き出している様子」から、昔の人々は、「あの世の地獄の風景」を連想したようで、日本の各地で、決まったように「地獄」という呼び名が付けられています。
「地獄」から湧き出した大量の温泉は、変質してもろくなった岩肌を刻んで流れるため、谷のような地形ができあがります。こうして熱水変質帯にできた谷状の地形は「地獄谷」と呼ばれてきました。かつては「地獄」や「地獄谷」というのは、信仰の対象物に対する呼び名であったと考えられますが、現在では温泉現象を伴う熱水変質帯の地形を表す言葉として使用されるようになっています。
このような地獄谷では、温泉の自然湧出、火山ガスの噴出、泥を吹き上げる泥火山の生成、温泉成分の沈殿物や硫黄などガス成分の昇華物の生成など、さまざまな温泉現象を観察することができます。さらに、地熱や硫化水素、亜硫酸ガスなどの火山ガスの影響で植物が生育しにくい環境であるにも関わらず、ガンコウランやシラタマノキ、イオウハナゴケ、キタゴヨウ、イソツツジなど硫気孔植物と呼ばれる、温泉地帯の環境にも耐えられる特有な植物を観察することができます。
秋田県の後生掛温泉や玉川温泉一帯の地獄には自然研究路と名付けられた自然観察用の遊歩道が整備されており、散策を楽しみながら様々な形態の温泉現象を間近に観察することができます。
私にとって、このような「地獄」は、まさに「天国」です。地獄をめぐる旅は大好きです!