白骨温泉のもう一つの魅力
乗鞍岳や焼岳の東側に位置する長野県の白骨温泉。乳白色の温泉としてよく知られ、人気の温泉地です。
白骨温泉周辺の基盤となる地層には、石灰岩の岩体が分布しています。東側の火山地帯の地下で生成される熱水が、石灰岩の層内の断層を伝って上昇する間に石灰岩の成分である炭酸カルシウムを大量に溶かし込み、地上に湧き出します。
山を挟んですぐ隣に位置する乗鞍高原温泉がpH3程度の「酸性硫黄泉」であるのに対して、白骨温泉は炭酸カルシウムで中和されているのか、pH6.5~7程度の中性泉で、刺激が少なくまろやかなお湯に仕上がっています。
白骨温泉で特筆すべきは、「太古の温泉」の温泉成分が沈殿して堆積した石灰華(炭酸カルシウムの温泉沈殿物)が、白骨温泉の広範囲にわたって分布していることです。しかも、所によっては、温泉の湧出場所にできた石灰華の高まり(噴湯丘)が面影をとどめている所もあります。また、温泉が湧出する場所にできる「流れを伴う小さなプール(水たまり)」には、砂粒などを核として炭酸カルシウムが同心状に成長してできる球状の石灰華も生成されてきました。
これらが我が国において稀少な自然であることから、「白骨温泉の噴湯丘と球状石灰石」という名称で大正11年に国の天然記念物に指定され、さらに昭和27年には特別天然記念物に昇格指定されました。
余談ですが、指定名称に「球状石灰石」とありますが、石灰石というのは石灰岩の「鉱業の対象とした鉱石名」であり、的を得た名称とは言えません。本来「球状石灰華」とすべきであった思います。
これだけ「広範囲にぶ厚い温泉沈殿物が分布している」ということは、「太古の昔には広範囲から相当に大量の温泉が自然に湧き出していた」ことを物語っています。あまりにも壮大なスケールであり、現在のようすから考えると想像もつきません。太古の昔の「幻の白骨温泉」に思いを馳せながら、白骨の白いお湯を楽しみたいものです。
近年、白骨温泉も、これらの特別天然記念物を大切に保護しながら温泉地の資産として生かそうという機運が生まれ、それらを核とした温泉地ができ上りつつあります。とても喜ばしいことだと思います。
まだ伺ったことはありませんが、昨年7月に「新博物館」としてオープンした松本市立博物館にも、白骨温泉の特別天然記念物に関する展示があると聞いています。今となっては散逸している特別天然記念物「球状石灰石(球状石灰華)」などが、博物館のようなきちんとした施設で保管・展示されることを期待しています。