温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

温泉分析書の「ミリバル」とはどんな単位?

ミリバル(mval)という不思議な単位

温泉分析書の、「陽イオン、陰イオン」の欄を見ると、ミリバル(mval)という、他では聞いたこともないような単位が使われています。なにしろ、学校でも習いませんし、『単位辞典』のようなもので調べても載っていません。温泉の世界だけで使われている単位なのです。一体どんな単位なのでしょうか。

ミリバル(mval)という単位をイメージすると

温泉の成分として含まれる「イオン」は、プラスやマイナスの電気を帯びています

ミリバル(mval)という単位は、「それぞれのイオンがもつ電気の量」を表わす単位です。すなわち、温泉分析書のミリバルの欄を見れば、成分として含まれるイオンの電気的な存在感がわかる訳です。

ミリバルの求め方のイメージとしては、そのイオンが何個含まれているかがわかれば、それにイオン価(右肩に付いている+、2+、または-、2-といった荷数)をかければそのイオンの電気的な量がわかります。

計算によるミリバル(mval)の求め方

まずは、イオンの質量(mg)をイオンの原子量(分子の場合は分子量)で割って、イオンの個数を(ミリモル : 10-3 mol という単位で)求めます。正確な個数は、この値にアボガドロ定数(6.02×1023)をかけると求められますが、ここではミリモル単位の個数で計算します。さらに個数(ミリモル単位)にそのイオンの「イオン価数」をかけるとミリバルの値を求めることができます。具体的には次の計算式で求められます。

 

例えば、温泉水1kg中にカルシウムイオン(Ca2)が400.8mg含まれているとします。カルシウムイオンの原子量は40.08、イオン価数は( 2+ )なので2です。したがって、計算式は、400.8÷40.08×2=20(mval)となります。

炭酸水素イオン(HCO3)が915.3mg含まれている場合は、分子量が61.02で、イオン価数は(-)なので1で、計算式は、915.3÷61.02×1=15(mval)となります。

温泉水の中では電気的に釣り合っている

温泉水などイオンを含む水溶液は、電気的に釣り合っているため(電気的中性の原則)、+の量と-の量が差し引きゼロになっています。この原則をもとに温泉分析表を見ると、ミリバルの値はイオンがもつ電気の量ですので、陽イオンのミリバルの合計値と、陰イオンのミリバルの合計値は等しくなる」はずです。ミリバルの合計値が陽イオンと陰イオンで食い違っていたら、「温泉分析の技術上の誤差」や、「分析によって測定されていない成分の存在がある」ことなどを想定しながら見ていく必要があります。私は分析書を見る時は、真っ先にこの欄を見比べます。

上の温泉分析書を見てください。本来なら「陽イオンのミリバル合計値」と「陰イオンのミリバル合計値」は理想的には等しくなるべきものですが、ここでは「陽イオンのミリバル合計値」が96.51mval、「陰イオンのミリバル合計値」が107.50mvalと差が出ています。すなわち「陽イオンの電気量」が足りない訳です。この差に「何かあったのか!」を考えなければなりません。


上の温泉分析書では、イオンではなく電気を有しない「遊離成分」の欄に「ミリバル」の値が記載されています。この欄は普通は、mgの値のみか、または個数を表わす「ミリモル(mol)」の値が記載されるべきところですので、ミリモルの間違いだと思われます。

陰イオンの「ミリバル%」の合計欄が、100.02%と、100%を超えてしまっています。「全体」なのに「100%でない」というのは‥‥‥!

「鉄イオン」という表記や、遊離二酸化炭素、遊離硫化水素の化学式もちょっと雑な表記になっていますね。