温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

温泉地の看板は楽しい!

温泉地や観光名所等に設置されている看板を真剣に見ると、とっても楽しいです。設置した役場や教育委員会の担当職員が、「説明しようとする対象」をよく理解していないために、時として私たちを大いに楽しませてくれます。

鳥取県倉吉市 関金温泉の説明看板

上の写真は、鳥取県の関金温泉で見かけた説明看板です。「伝説」と言えば何でもありで、いつだれが言い出したのかも定かでありません。特に弘法大師空海)は全国の温泉地から引っ張りだこです。全国津々浦々の温泉地の「温泉発見伝説」に登場させられ、温泉地に「箔」をつけています。

弘法大師は宿坊に泊まっているのに、わざわざ宿坊から離れた湯谷川まで行って顔を洗っていらっしゃいます。

また、文中には弘法大師が「川の流れに温泉の匂いを感じ‥」とありますが、そのあとには「無色無臭のラジウム泉‥」とありますね‥‥。

透明なお湯と書けばいい所、「女人が入湯すれば肌を覆わねばならぬほど透明なお湯である」と表現されています。冷静に考えるとこれを書いた役場の職員の表現力は半端ではないと思ってしまいますが、どこかの古い文章を引用されたのでしょうか。

このように看板には関金温泉は弘法大師が発見したことになっていますが、実はもう一つ、弘法大師より古い時代に行基が発見したという伝説まであり、ぐちゃぐちゃです。なんと今では関金温泉は、行基が発見した古い開湯伝説を使って開湯1300年を売り出しています。

秋田県 川原毛地獄の説明看板

上の写真は、秋田県川原毛地獄の説明看板です。

現地の噴気地帯で使われている名称(固有名詞)と、一般的に使われる一般名詞とが混同していて、私は今、秋田県にいるのか、それともあの世の地獄に立っているのか、頭がごちゃごちゃになってしまいます。ひょっとしたらそういった効果を狙った次元の高い看板なのかもしれません(そんな訳ないと思いますが‥‥)。

「川原毛地獄は、古くから羽州の通融嶮と呼ばれ‥‥」とありますが、例えば「東洋のマチュピチュと呼ばれ‥」のように「どこどこの〇〇」の〇〇にあたる所にはよく知られた有名な地名や名所がはいるものですが、この「通融嶮」なる言葉は意味がまったく分かりません。インターネットで検索すると、国立国会図書館のリファレンス結果が一件ヒットするのみです‥。しかも「通融嶮の意味が知りたい」という内容。悲しすぎます。

秋田県秋の宮温泉の天然記念物の説明看板(旧看板)

上の写真は、秋田県湯沢市教育委員会が設置した秋の宮温泉から産する国指定天然記念物「じ状珪石」の案内看板です。一部がなかったり、字が所どころ消えていたりすると、かえって近づいて必死に読もうとするものです。これもまたそうした人間の心理的な効果を意図的に狙った看板なのかもしれません(そんな訳ないと思いますが‥‥)。

山梨県のあちこちの温泉でよく見かける看板

山梨県の温泉を訪れると、あちこちの温泉で、上のようなT氏の書かれた「温泉の説明看板」に出会えます。「またあった!」という感じです。氏の説明文は学術的な内容だと思って読んでいると、氏が提唱した他であまり使われていない用語が多用されていたり、「世界的にも極めてユニークな」「世界的にも珍しい」「理想的な温泉」「最高の温泉」など、主観的な表現が多用されていたりといった特徴に気づきます。インパクトの強い看板ですね。

鳥取県浜村駅の駅舎内の「歓迎看板」

鳥取県浜村温泉の玄関口「浜村駅」で降りて駅舎に入ると、正面にあるこの哀愁漂う看板が迎えてくれます。

「貝がら節」を踊る娘さんたちの顔がクローン人間のようにみな同じで、表情がないのがすごいですね。左手の描写(親指の様子)がちょっと変ではないでしょうか。バックの色遣いが、よくもまあというぐらい昭和色をしています。風情があって好きです。

歓迎なのか、温泉地のPRなのか、パロディーなのか(失礼)、看板からギラギラした「商魂」のようなものが伝わってこないのがいいですね。

「貝がら節のふる里」を自慢しているようですが、貝がら節自体をよく知りませんでした。早速調べてみました。なんと物悲しい民謡なのでしょうか。

この看板、ずっと現役で浜村駅で存在感を出し続けていてほしいと思います。

それにしても浜村温泉共同浴場はすべて地元専用になってしまって、唯一の温泉センターも老朽化で閉鎖中。旅館も二軒のみ。温泉に入ろうと思って電車を降りたものの、貝がら節の境地に。

♫ヤンサノエー ヨイヤサノサッサ

何の因果で ‥‥電車おりたやろ♫