あこがれの乳白色の温泉
青色の温泉のメカニズムは、メタ珪酸粒子によって「レイリー散乱」が起こることによるものでした。
それでは、乳白色の温泉のメカニズムは?と、考えたくなります。今度のキーワードは、温泉で生成される微粒子と「ミー散乱」です。
乳白色の温泉は、多くが「単純硫黄泉(硫化水素型)」「含硫黄―〇〇―〇〇泉」といった泉質で、温泉中に気体の硫化水素を多く溶かし込んだタイプです。
温泉が地上に湧き出すと、温泉水中に溶けていた硫化水素が空気中の酸素に触れて、温泉水中には個体の硫黄ができます。硫黄の粒(硫黄コロイド)は結構大きくて、太陽光のすべての波長の光(七色の光)は、硫黄の粒に出くわすと通過することができずに、すべてが散乱してしまいます。
このように、すべての波長の光が散乱する現象を「ミー散乱」といいます。
浴槽内には、硫化水素から生成された硫黄の粒がたくさんふくまれているので、太陽光は硫黄の粒によってミー散乱をひき起こし、さまざまな色の光がすべて散乱します。その結果、私たちが浴槽を見ると、浴槽から散乱してきたすべての色の光、すなわち白色の光を見ることになります。これが温泉水が乳白色に見えるメカニズムです。
湧き出したばかりは無色透明で、やがて時間の経過とともに白色がかってきて、やがて乳白色になるという変化が見られる温泉が少なくありません。これは、硫化水素が時間の経過ととも硫黄の粒子に変化していくことに反映しています。
写真の温泉は、少し前に廃業された草津温泉の高砂館の浴槽です。地蔵の湯の目の前にある旅館で、泉質の良さと、いつも「熱いから好きな温度に水を入れてくださいね」と言ってくださるやさしい女将さんが定評の名旅館でした。撮影許可をいただいて撮影したものです。
炭酸カルシウムによる乳白色の温泉
今までのお話は、酸性硫黄泉など、温泉から生成された「硫黄粒子」によるミー散乱で乳白色に見える温泉の場合です。
これとは別に、温泉中で生成される「炭酸カルシウムの微粒子」によるミー散乱で乳白色に見える温泉もあります。長野県の白骨温泉などがその例です。
白骨温泉の場合、地下の熱水が石灰岩の地層を通過する際に、石灰岩の成分である炭酸カルシウムを大量に溶かし込み、地上に湧出します。温泉水中では、石灰成分は炭酸水素イオンとカルシウムイオンとして存在しており、湧き出して空気に触れると、炭酸ガスが放出されることなどによって反応が進み、炭酸カルシウムの微粒子となって析出します。この微粒子に太陽光が当たるとミー散乱を起こして、乳白色に見えるというしくみです。