温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

平野部で温泉が湧くしくみを考える

非火山性の温泉

最近次々と誕生する新しい温泉施設の多くは、火山などと全く無縁の山間部や平野部などにあります。便利な都市の中心部にもこのような温泉が目立つようになりました。
このような温泉では、なぜ、井戸水と違った比較的高温の温泉水が得られるのでしょうか。

 

一般的に、地下へ100m深くなると温度がおおよそ3℃(平均値)高くなることが知られています。これを地下増温率又は地温勾配と言います。新しく誕生する非火山性の温泉のほとんどがこの地下増温率によるもので、多くの温泉は1500m前後掘削して、地下深くに貯えられている地下増温率によって温められた温泉水(深層熱水)をくみ出しています。
ただし、どこでも掘削すれば高温の深層熱水が得られるかというとそうでもなく、地下に豊富な地下水が貯えられていることが不可欠です。

 

大深度掘削の温泉と地下増温率のしくみ(筆者原図)

図のように、100m深くなる毎に温度が約3℃上昇するので、1500m前後掘れば理論的には地上での水温+45℃ぐらい高温の温泉が期待できそうなのです。しかし、深層熱水が地上までの長距離を上がってくるうちに温度が低下するので、42℃以上の高温泉が湧出する例はそれほど多くありません。

濃尾平野南西部の木曽三川の河口周辺には大深度掘削による温泉がたくさんありますが、42℃以上の高温泉が湧出している所が多く、中には60℃前後の温泉もあります。地下水が豊富で、湧出量も多いのが特徴です。

 

地下の地層の中には、地層が堆積するときに閉じこめられた太古の海水が存在することがあります。これはいわゆる“化石海水”と呼ばれるものです。
非火山性の温泉の中には、大深度掘削によって地下の化石海水を汲み上げている所もあります。このような温泉では、海から遠く離れた火山のない場所にも関わらず、塩辛いナトリウム-塩化物泉(食塩泉)が湧き出しています。