温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

温泉が湧くしくみを考える

火山性の温泉

火山地帯において「温泉が湧き出す」というのはイメージしやすいですね。実際に「地獄」と呼ばれるような観光地へ行けば、噴気などとともに熱い温泉が自然に湧き出しているのを目の当たりにすることができます。

火山の分布と火山フロント(防災科学研HPより引用)

上の図は、火山の分布と火山フロントの位置を示したものです。火山が線状に分布する太平洋側の縁をなぞってできる線を火山フロントと呼んでいます。なぜ火山がこのように一定の場所に規則正しく並んでできるのか不思議に思えますが、これは、海溝から海洋プレートが沈み込む深さに関係します。下の断面図を見てください。

 

プレートの沈み込みとマグマの生成(筆者原図)

海水をいっぱい取り込んだ「海洋プレート」は温度が低いので、温度が高い大陸プレートの下へ深くへ沈み込んで行きます。このように沈み込んだ海洋プレートのことを専門用語では「スラブ」と言います。

海洋プレートは、沈み込んでいくと高い圧力が加わりますので「数100℃」という高温になります。そのうちに、圧力によって「海洋プレート内部からの脱水作用」が起き、流体(高温で成分を溶かし込んだ水)が絞り出されます。このように海洋プレート(スラブ)から絞り出された流体のことを、専門用語では「スラブ起源流体」とか「スラブ流体」と呼んでいます。能登半島地震のメカニズムを説明する際には、単に「水」という言葉が使われていました。

 

絞り出された流体は、高温であるので密度が小さいく軽いため、断層などの割れ目を伝って上へ上へと地上に向かって上昇していきます。

 

このような地下50㎞~80㎞ぐらいで発生した「高温の流体」が、「奇跡的に地上までつながった割れ目」を伝って湧き出すのが、火山のない場所にも関わらず「有馬や紀伊半島で高温の温泉が湧く」メカニズムです。これらは直接火山とは関係がない温泉ですので、非火山性の温泉ということになります。

 

一方、プレートのもっと深い場所では、プレートから脱水した流体はさらに高温であるため、周りの岩石を溶かして「マグマ」を生成します。

生成されたマグマは、周辺の岩石より密度が小さく軽いため、弱い部分を伝って上へ上へと地上に向かって上昇していきます。

地上に近づくにつれてマグマが冷やされ、地下数kmぐらいに達すると「周りの岩石と密度が同じくらいになる」ため浮力を失って上昇できなくなり、深さが同じ所にマグマが溜まり出して「マグマだまり」ができます。マグマだまりができると、その地上は火山であったり温泉が湧く場所であったします。

 

すなわち、海洋プレートが沈み込んで行き、ある一定の深さに達っするとマグマが生成されるため、地上で火山ができる場所も、その地下に存在する海洋プレートの一定の深さの所を結んだ規則的な線状になる訳ですね。

 

 

能登半島地震の原因となった「流体」とは

能登半島の今回の大地震や以前からの群発地震のメカニズムとして、地下深部の「流体」が上昇して、能登半島の地下でその「流体」が、断層を潤滑剤のように動きやすくしたためなどと説明されています。その流体こそが、海洋プレートが沈み込む際に脱水作用によって絞り出された高温の水で、前述のように有馬や紀伊半島の高温泉のもととなったり、岩石を溶かしてマグマを作り出す「あの」スラブ起源流体です。

能登地震を説明する図(TBSテレビ画面より引用)

 

今回の地震では、地下深くから上昇してきたスラブ起源流体が逆断層の隙間に入るなどして断層を動かしたと考えられていますが、「逆断層がずれて能登半島では4mも隆起した」というから驚きです。しかも海岸線付近を境に隆起した部分が、結果的に津波をよける防波堤の役割をしたということも興味深い話です。

 

能登地震を説明する図(2024.1.8付朝日新聞より引用)


それにしても、能登半島の下に潜り込んでいる海洋プレートは、地下200㎞ぐらいの深さにあり、火山フロントの辺りよりももっと深くにあります。それなのになぜ絞り出された流体によってマグマができないのか、疑問も残ります。火山フロントの下あたりでプレートが脱水しすぎて、能登半島の下あたりではマグマを生成するほど流体が発生しないのかもしれません‥‥。

 

今回の能登の大地震。時間が経つにつれて大変な惨状が明らかになってきました。亡くなられました多くの皆様に心より哀悼の意を表しますとともに、被災された皆さまには、一日も早い復旧をお祈りいたします。