温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

紀伊半島の旅「那智の滝」

那智の滝

紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されてはや20年が経とうとしています。

紀伊半島を旅するのが好きで、よく出かけますが、今回の白浜への家族旅行では久々に那智の滝や、那智大社などへも寄り道(温泉以外はみんな寄り道)してきました。いい温泉がいっぱいあるのに、ここは我慢です。

青岸渡寺五重塔那智の滝

「滝」の定義とでき方

滝の定義は、「川や谷の河床(川の底)にできた段差を水が流れる場所」ということで、滝の成因は、「なぜ河床に段差ができたのか」ということに尽きます。溶岩の末端の崖にできた滝、断層が掘り出されて段ができた滝、違う種類の岩石が接する場所で、どちらか軟らかい方の岩石だけが差別侵食によって削られることによって段ができた滝など、滝の成因はいろいろあります。

那智の滝のでき方」

那智の滝」は、地下のマグマが割れ目を伝って上昇して堆積してできた花崗斑岩(熊野酸性岩類)の岩体と、砂岩や泥岩からなる熊野層群の岩体との境目にできた滝です。

那智の滝周辺の地質図(産総研地質調査センター地質図ナビより引用)

那智の滝の崖をつくる花崗斑岩は硬い岩石で、崖の向かい側に分布する砂岩や泥岩は比較的軟らかい岩石からなっています。そのため、滝側の花崗斑岩は侵食されにくいのに、もう一方の砂岩や泥岩は侵食されやすく(差別侵食)、段差ができます。また、滝のある場所は花崗斑岩の岩体の端の部分で、マグマが急に冷やされた場所です。その結果、柱状節理と言われる垂直方向の均一な割れ目が発達し、地形的には特に急峻な崖になります。こうしてできた大きな段差に向かって川が流れ、133mという「一本の滝」としては日本一の落差の滝ができあがりました。

落差133mの那智の滝 滝の崖は熊野酸性岩類の花崗斑岩、崩れている岩も同様

那智の滝に限らず、紀伊半島は地質的な魅力がいっぱいです。現在、日本国内には、日本ジオパーク委員会に認定された「日本ジオパーク」が43地域あるそうですが、ここ紀伊半島南紀熊野ジオパークもそのうちの一つです。観光地となっているような場所の地質や地形についての正しい解説がなされ、教育普及活動が進められています。かつては読んでいて「うそー」と叫んでしまうような、ひどい内容の看板をよく見かけました。笑ってはいけませんが、事実と神話や伝説が混同しているものが少なくありませんでした。

熊野那智大社青岸渡寺

滝の近くには熊野那智大社や、西国三十三所第一番札所である青岸渡寺(せいがんとじ)もあり、凛とした神聖な空気に満ちています。

私の住む岐阜市からほど近い所には西国三十三所第三十三番札所(最後の札所)谷汲山華厳寺があり、これで最初と最後の一番と三十三番札所にお参りしたので、すべてを制覇したような気分になりました‥。

熊野詣での熊野三山のひとつ「熊野那智大社

熊野那智大社の隣にある西国三十三所一番札所「青岸渡寺

那智

私にとって「那智」といえば、連想するのは「那智黒飴」。岐阜でもかつてテレビの謎めいたコマーシャルをやっていましたし、お土産でいただく定番でした。「那智黒」というのは、硯や黒の碁石に使われた「黒色粘板岩」という石の名称です。粘板岩とは、泥が固まってできる泥岩に圧力がかかってはがれやすいような性質をもった硬い石です。「那智黒」には「那智」という地名が入っていますが、産地は三重県熊野市神川町だそうです。

紀伊半島は地質や地形的な見どころがいっぱいで、ワクワクします。すばらしい自然の活用と保護のへの南紀熊野ジオパークの持続的な活動に期待しています。