温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

田沢温泉のすばらしい硫化水素臭と、その起源

信州の松本と上田に挟まれた山間部の山里には、鹿教湯温泉別所温泉、田沢温泉、沓掛温泉、霊泉寺温泉など、古くからよく知られた温泉地が点在しています。どの温泉も、ゆっくり湯治できるような落ち着いた温泉地で、私は大好きです。

いずれの温泉も無色透明の澄んだお湯で、微かな硫化水素臭を伴う「アルカリ性単純硫黄泉」や「単純温泉」からなります。 

 

無色透明の温泉に入って、ほのかな硫化水素臭が香ってくれば、とっても幸せな気分になります。鮮度の良い温泉が「正しく」使われている証であるからです。

そんな温泉の中でも印象的なのが田沢温泉です。共同浴場「有乳湯(うちゆ)」に使われている源泉は、透明のお湯からとっても強い(いい意味で)硫化水素の香りがします。

田沢温泉ホテル富士屋の内風呂 硫化水素臭がたまらない(撮影許可済)

この辺り一帯は北部フォッサマグナと呼ばれる、日本列島を東西に分断する大きく落ち込んだ溝(地溝帯)の上に、新生代第三紀の海生の地層がたまった場所で、その後に、地下のマグマが地上付近まで上昇して固まった「安山岩質の貫入岩」が至る所に顔を出しています (地質図の赤茶色い部分)。

田沢温泉周辺の地質図 (産業技術総合研究所 「地質図Naviによる)

赤丸印が、左から田沢温泉、沓掛温泉、別所温泉です。これらの温泉は、泉温が40℃~50℃ぐらいで、その熱源は、随所に顔を出している「安山岩質の貫入岩」によるものであると考えられています (たとえば飯島 1987) 。

田沢温泉などの「硫化水素の起源」は、たくさんの貫入岩を作り出した地下の古いマグマから分離した火山ガスに由来するものではないかと思われます。

 

田沢温泉の風情ある街並み

良質の温泉と、素敵な温泉地の環境が、いつまでも残されることを願っています。

田沢温泉の共同浴場「有乳湯」