温泉博物館 名誉館長の 温泉ブログ

  温泉の科学や温泉現象について、わかりやすく解説します

地下水脈の把握は難しいけれど‥‥

リニア工事から考える

今から2年ほど前、青森県の嶽温泉や秋田県の秋の宮温泉郷などで、湯量の減少や温度の低下がみられ、温泉地の存続にかかわるショッキングな出来事として報じられました。同様な現象で頭を抱える温泉地は少なくありませんが、その多くがはっきりした原因が特定されていないようです。

温泉の湧出に関わる地下水脈(温泉脈)というのは非常にデリケートであり、地震や地下水の過剰な汲み上げ、新泉源の掘削など、さまざまな原因により容易に変化しうるということを、私たちはこれまでの数々の事例を通して理解してきています。

岐阜新聞5月15日付朝刊より

岐阜県瑞浪市において、リニアのトンネル工事の影響で地下水位が下がったり、井戸が枯渇したりしていることが新聞やテレビで大きく報じられました。影響を受けた住民にとっては、寝耳に水であったようです。

岐阜新聞5月15日付朝刊より

5月23日付岐阜新聞朝刊記事によりますと、トンネル内の亀裂から湧水が発生しており、湧出量は毎秒20リットル程度だといいます。温泉と比較するために毎分に換算すると、1200リットルになります。この量は、例えば『夢千代日記』の舞台となった兵庫県湯村温泉の総湧出量の半分強に匹敵します。

このような事態は、「予期できなかった」ことなのか、それとも「予期しなかった」ことなのか、それとも「予期できたこと」なのかわかりませんが、科学的な知見が蓋をされるようなことだけは避けなければなりません。事が起きてからやや感情的に考えると、今となっては、近隣県の知事さんの「水問題」への提唱も頭をよぎりますね。

朝日新聞5月21日付朝刊より「朝日川柳」欄