長野県乗鞍高原温泉
温泉にさまざまな泉質のバリエーションがあることはとてもうれしいことです。「どんな温泉に出会えるか」ということは温泉巡りの醍醐味だからです。と、言いつつも、私は「強烈な硫化水素臭を漂わせる白濁の温泉」にあこがれます。
私の住む岐阜県内で白っぽく濁る温泉はというと、平湯温泉の「ひらゆの森」や新穂高温泉の中崎山荘、そして、成分の異なる源泉を混ぜるためにイオンバランスの違いから塩(えん)が生成されることによって濁りを生ずる新平湯温泉の旅館など、ごく一部に限られます。県内には「強烈な硫化水素臭を伴う白濁した温泉」は残念ながらありません。酸性泉もありません。
岐阜市から一番近い「強烈な白濁の温泉」は長野県の白骨温泉か乗鞍高原温泉なのですが、白骨は宿泊費が高い宿ばかりですので、いつも乗鞍高原温泉へ向かいます。
乗鞍高原温泉のお湯は、もともと同じ泉源から引湯される白濁した「硫黄温泉(硫化水素型)」です。以前はpH3以下の酸性泉でしたが、現在はpH3.2とやや高くなり「酸性」でなくなってしまったようです。
湯川泉源付近では、源泉から温泉成分が析出して硫黄華を生成するため、古くからそれを採取して「入浴用天然湯の花」として販売しています。
硫化水素が多いため、浴室内の金属はもとより脱衣所の金属類までが「硫化黒変」により真っ黒に変色しています。もちろん指輪やネックレスなどの金属製品を着用しての入浴は厳禁ですね。黒く変化してしまいます。写真は決して汚れではありません。清掃は行き届いています。
7km引湯の難工事で誕生
乗鞍高原温泉は、乗鞍岳の長野県側の登山口がある高原に所在し、一帯に温泉旅館や民宿などの家族経営的な小規模の施設が数多く点在しています。この高原にはもともと温泉はありませんでしたが、昭和51年に、白骨温泉を流れる湯川の上流部(乗鞍岳の山腹の標高2,200mあたり)の「温泉が自然湧出する」場所から7kmあまりの引湯に成功し、念願の温泉地となりました。泉源のある湯川と乗鞍高原は尾根を挟んだ位置関係にあり、高低差約550mの険しい地形でしかも豪雪地帯であることから、構想から30年以上かかってようやく完成しました。
その時の工事の構想から完成までの概要が日本温泉科学会誌『温泉科学』40巻4号に「浜田亀太郎(1990)乗鞍温泉引湯工事の紹介」として収められており、誰でも検索して閲覧することができます。特に乗鞍高原温泉の旅館や民宿の経営者の皆さんに読んでいただき、HP等で紹介していただくとよいのではと思います。
乗鞍高原の温泉旅館や民宿はとってもリーズナブルで、しかも強烈な白濁硫黄泉ということで、私は大好きです。いろいろな宿に泊まりましたが「はずれ」がありません。歴史が浅い温泉地であるせいか、今ひとつ認知度が低いようですが、少しぐらい「穴場」の温泉地があってもいいでしょう!
なにしろ、今回の滞在中に外国人と一人も出会いませんでした。すぐ近くに外国人まるけの上高地があるというのに‥‥。